011 選択
「役者は揃った、ってところか」
そう言った男、白鴎組組長でありリナの父親、
足元に転がっている、全ての元凶である研究者、
壁にもたれたまま、銃を握っている現若頭の長男。
ベッドの傍で続きの治療を終えたため、医療用のゴム手袋を外す次男。
そのベッドの上にじっとしている、自らをクロと名乗る元ホームレスの青年。
そして、
銃口を父母のいる方に向けているリナだが、ただ向けているだけで狙いを定めているわけではない。だからこそ、護衛についてきた長男も銃口を向けているだけで引き金を引く様子はない。
異常な状況にもかかわらず、父親は取り乱すことなく、自らの娘を見つめた。
「……記憶は戻ったのか?」
「おかげさまで……いやな記憶しかないと思ってたら案の定だったから、もう腹も立たないって」
息を吐くリナ。
父親の次は、母親を見下ろした。
「……それ、どうするの?」
「さあな。……で、どうするんだ?」
父親は母親を踏みつける。どうやら気を失っているらしく、一言も漏らさなかった。
「俺と一緒に母親を虐げるのか、それとも母親を助けてその力を振り回すのか、それとも……」
彼女がここに来た目的に、変わりはない。
「……クロ、起きてる?」
最後にリナは、ベッドの上にいる青年、クロに話しかけた。
答えはないが、多少は動けるらしく、右手を上げて応えていた。
「帰るよ。おいで」
クロは立ち上がろうとした。しかし、麻酔の効果が残っているのか、ひどくゆっくりとしたものだった。それでも彼は立ち上がり、身体を抱えるように、飼い主の傍へと歩み寄り、
「よっ、と……」
倒れ掛かるペットを、リナは受け止めた。
「そんじゃ帰るけど……最後に一言」
受け止めたクロを抱きしめるように抱えたまま、リナはここにいる全員に告げた。
「後でそれにも言っといて……次ワタシのものに手を出したら、ただじゃおかないから」
「……ああ」
それだけ言い終えると、リナは小型の自動拳銃を仕舞い、クロを肩に担ぐように持ち替えた。
「医者の当てはあるのか?」
「バイセクシャルのおね~さまが一人、心配する必要はないって。……じゃあ帰ろっか、クロ」
二人は歩き出した。まだ施設内にいる可能性もあるが、もうあの二人を止めることはできないだろう。
「……ところで」
「ん?」
二人はゆっくりと、施設の外を目指した。
「どこまで行くの?」
「ん~……どこまでも」
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