010 常坂璃奈
「俺が常坂晴美を外道だと思ったのはな、人の命を何とも思っていないところじゃない。そもそも、人間ってのは最低でも自分、そして身内の人間には甘い生き物だからな。見知らぬ奴にも甘くできる善人でもない限り、他人の命や生き様を否定するのは当然だ」
男達の懐中電灯があるとはいえ、施設内の暗さは変わらない。ほとんど見えない中を、リナは駆けていく。時折足音を強くして響かせ……その周囲に反響させていく。
「だがあいつは、自分自身すら研究の材料としていたんだ。自分を含めた全ての命を蔑ろにしているんだ、十分外道だろう。まあ、流石に当人には変化がなかったが……胎内にいた娘の方には影響があった。煙草一本でも胎内の赤ん坊に影響するんだ、まあ当然だな」
最初、リナの脳内に映ったイメージは暗い通路と障害物だけだった。なのに足音を強く、深く踏みしめる度に、そのイメージは鮮明になっていく。
「よっ!」
飛んでくる弾丸すら把握するほどに。
「お前が逃亡した後に全部知ったんだが、リナの奴は母親の部下達に色々やらされたらしい。情交はまだ分かるが、小中学生のうちに人殺しのやり方すら叩き込んだのはやりすぎだ。おまけに……研究成果の軍事利用も検証してやがった」
バリケードに乗り込んで
「やっぱこっちの方がしっくりくるな~」
スカートが捲れるのも厭わずに飛び跳ね、不意打ちをかわした。
「あいつの能力に気づいた後はひどかった。いや、後もか……まあとにかく、その後はよくある人体実験だ。どこまでのことができるのか。実戦でどのような応用ができるのか。一時期はずっと耳を塞いだまま泣いていたらしい」
「ああ~右足が痛い。……あ、別に音ならいっか」
ガンガン、と壁に銃床を殴りつけ、音を常に響かせている。そうするだけで、
「もう気づいてるんだろう。あいつが嘘を見抜いたり、相手の健康状態を容易に把握できる理由……耳だよ。今は記憶がなくなっているから無意識にセーブされているが、その聴覚は障害者のように他の感覚を補うどころか、さらに強化されてしまうらしい」
位置はばれてしまうが、先にどこから来るか知っている分、リナの方が上だった。先に銃口を向け、引き金を引けばいいのだから。振り向く必要はない。既に位置を把握しているのだから。
「ほんと昔っから銃が下手だなぁ……………………ぁ」
「異常聴覚の恩恵は
銃声が響く中、リナは空いた手で耳を塞いでいた。それでも足を止めないのは、自らの本質だからだろう。目的を果たす、そのために立ち止まらない。もし、母親と並んでみれば……その生き方は似ていると周囲に言われることになるだろう。
「ぁ、あ…………こんな、時、に……………………」
いや、こんな時だからかもしれない……リナは自らの力を再び使いこなし始めていた。それこそ……記憶の扉をこじ開けられるほどに。
「数多くの実験体がいたがな。それでも見た目を変えない、しかし感覚器官の強化は施されている。おまけに軍事利用にまで発展できたのはたった一人。……それが
目的の階に到達した頃には、すでにリナの能力は限界にまで引き出されていた。そのために、今迄クロ達が話していた内容を、遠くからでも理解できてしまったのだった。
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