009 銃撃戦3

「あらよっとぉ!!」

 扉を蹴り開けて施設内に転がり込むリナ。一階に降りようとしていた連中が仲間が撃たれたことを知り、お返しとばかりに発砲して来たので、すぐ近くの部屋へと勢いを殺さずに飛び込んでいく。

「あでっ!! あたた~……」

 置物にぶつけた頭を摩りつつ、部屋の外に軽機関銃サブマシンガンの銃口だけを差し出して、弾丸をばら撒いて行く。流石に装弾数は少ないが、向こうの人数も少ないので十分事足りた。……今のところは。

「やっばいな~下からどんどん来てる……」

 おまけに適当に撃っているだけだから、弾丸が当たらずに、ほとんどが生き残っている。いや、もしあたっていても軽傷の場合が多いのかもしれない。唯一の救いは、明かりがほとんどないので、向こうも狙いをつけづらいということだけだろう。

「どっちも変わらないか~、てかこれ駄目だな。役に立たない」

 軽く軽機関銃サブマシンガンに八つ当たりするリナだが、当人の腕という問題があることも自覚している分、内心情けなさがにじみ出てきていた。

「……練習しときゃ良かった」

 殺し屋になるつもりはないが、護身用として使う以上はある程度使えるようになっていた方がよかったと後悔するも、それは先には立たない。

「まあ、初めてだから仕方ないっか~……さてさて、どうしよっかな?」

 殺されるという不安を軽口で押し殺すリナだが、それでも……手の震えは止まらなかった。

「……やっぱ、直接的な恐怖は違うな~」




「はぁ……終わったか?」

「たった今、これからも医者通いは必要だろうけど……」

 最後の一人が入って来た。その男は何かを引きずりつつ、空いた手で頭を掻いている。

「下ももう来ているのか。手伝いに行った方がいいかね?」

「行った方がいいんじゃないんで? 武器はあっても、結局は女だから……」

 銃を持っていた男が答える。

 すると乗り込んできた三人とは別の声が、この部屋に響いてきた。

「……どうも」

「ん? ……おお。目が覚めたか」

 引きずっていたものを離し、最後に入って来た男は持ち込まれた簡易ベッドに近寄った。

「久しぶりだな。現状は分かるか?」

「その女、というのが予想通りなら……大体は」

「そうか……予想通りかは知らんが、来ているのは『リナ』だ」

 さてどうするか、と考えていると、またベッドの上から声が飛んできた。

「ペットって、どんな動物を思いつきますか?」

「ペット? そりゃあ……やっぱり犬だろ。猫もいいが、もう自由気ままなのはこりごりでな」

「そっか……」

 それがどうした、と聞く暇はなかった。

 局所とはいえ麻酔がかかっている中、どうやったのか、この部屋から飛び出すような大音声が響き渡った。




「……ワン!!」




「……クロ?」

 黒服の仲間達が集まり、弾幕を張りつつ近づいているのに気づいたリナは、軽機関銃サブマシンガンの弾倉を入れ替えていた。その時に、銃声の合間を掻い潜って、一際大きな声が聞こえてきたのだ。

「まったく、後でお仕置きだなこりゃ」

 再び軽機関銃サブマシンガンを構える。もうその手に震えはなかった。

「ご主人様に面倒掛けちゃっても~…………」

 部屋の中にあった置物を投げる。その置物は迷わず、唯一残っていた非常灯を砕き、連中の懐中電灯だけが暗い施設内を照らしていた。

「ふぅ……待っててね、クロ。すぐ行くから」

 決意した彼女が迷うことは、もうなかった。

 リナは右足を持ち上げて、力強く踏み叩いた。

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