004 脱出
その時だった。甲高く鳴り響くクラクションに、この場にいる全員が視線を向けた。その方向から、ライトをつけた車が突っ込んでくるのが見える。
「
「えっ、クロの名字白藤っていうの!?」
「……今その話、どうでもいいよね?」
クロの名字という現状では後回しでもいい話題を最後に、二人は引き離された。その間に割り込むように、クラクションを鳴らしていた車が停車した。
「あれ、この車って……」
リナはその車に見覚えがあった。
すると予想通りというべきか、運転手が拳銃よりも大きな銃、
「早く乗れリナっ!」
「ったく……ごめんクロっ!!」
後部座席のドアを開け、転がり込むように車に乗るリナ。後ろのドアが開いたままにも関わらず、運転手は
襲撃者達も飛びつこうとしたり、銃を構えたりしたが、結局車を逃がすことになった。追いかけるかどうかを話し合う連中を尻目に、路上に尻もちをついたクロは、視界から消えていく車を見つめながら、どことなく納得したように溜息を吐いた。
「ああ、そうか。そういうことか……おいあんた等」
「ああ、なんだ?」
若干苛立っている彼等に構わず、クロは口を開いた。
「……あんた等も追われてるんだろ、白鴎組に。一体何やらかしたんだ?」
アパートから離れた人気のない駐車場に到着し、リナは車から降りて運転席横のドアにもたれかかった。窓も開いていたので、半分身を乗り出している。
「……で、何で助けてくれたの?」
「こっちにもいろいろあってな……」
そう呟き、車を運転していた売人のゴロウは、エンジンを切らずにハンドルから手だけを外した。
「白藤の奴から、どこまで聞いた?」
「その名字自体、さっきはじめて知ったんだけど?」
とはいえ、リナはクロが話してくれたことを全部伝えた。それを胸中で吟味した上で、何をどう話すべきかをゴロウは考える。
「まずはじめに言っておくと、俺と奴は顔見知りだ」
「うん、で?」
まずは顔見知りの理由から話すか、とゴロウは方針を決めた。
「元々あのアパートのオーナーは俺だ。大家は別に信頼できる奴を置いているが……というか、気づかなかったのか?」
「なにが?」
こいつ意外と鈍いな、とゴロウは内心で呟いた。
「手数料の関係で、自動振り込みならともかく、現金引き落としに関しては支払う相手、つまり俺の了承も必要なんだぞ。それなのに家主のお前が何もしてない状態で、すんなり手続きできると思ってるのか?」
「……え、でもクロはやってくれたけど?」
こいつよく今まで生活できたな、とゴロウは思うが、決して口には出さなかった。
「まあつまるところ、銀行に手続きに行く前に、大家に顔を出してたんだよあいつは。その時偶々俺もいたから、ついでに挨拶だけしておいたんだ。ここまでは?」
「まあ……なんとか」
この期に及んで、続きを話すことをためらうゴロウだが、それでも話さなければ先に進めない。溜息を吐きつつ押し出すように、話を続けた。
「適当な偽名で名乗ってはいたが、その時点であいつの正体には気づいていたんだよ。けれども、リナが追い出さない以上、別にいいかと放置していたんだ。最初の数週間は見張りも兼ねて大家の部屋に泊まっていたがな。……お蔭でお前との時に飲んでいる薬まで持ち出す始末だぞ。金ばっかり飛んでいくな、お前と関わると」
「え、ちょっと待って……ほんとどういうこと? いきなり名前呼びだし、全然話についていけないんだけど」
頭を抱えて悩み込むリナ。その頭上に、ゴロウは事実を簡潔にまとめて告げた。
「だから……異母兄妹の生活を見守るために、俺が時折客として、妹であるリナを買っていたという話だ」
次の瞬間、リナは車から離れてゲェゲェ吐いた。
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