003 襲撃

 放たれた弾丸は真っ直ぐクロの横を抜け、年季の入った扉を貫く。次に外から響いてきた物音で、クロは漸く事態を察した。

「……ごめん、巻き込んだ」

「どっちにしても、ワタシも通り魔を殺したから……こうなってもしかたないって」

 クロは扉を壊す勢いで外側に開け、銃弾を受けて呻いていた襲撃者を突き飛ばした。しかし次々と群がってくる他の襲撃者達を見て、クロは扉を強引に閉めて鍵を掛ける。

「どこか逃げ……道はなさそうだね」

「いやまったく……」

 窓から入って来た襲撃者の一人が、拳銃を突き付けたままリナの拳銃を受け取り、外に投げ捨てていた。拳銃が落ちて壊れる音が、日常が壊れる音に聞こえたと、後にクロは語った。




 襲ってきたのは、常坂晴美の関係者で間違いないだろう。というのも、襲撃して来た者達が一様に、通り魔を殺したリナよりもクロの方に意識を向けていたからだ。

「今までどこにいたのかと思えば……まさか、こんな小娘と一緒にいたとはな」

「どうりで見つからないわけだ。というか、普通ウリやってる年下少女に養われるかお前?」

「羨ましいぶひぃ……」

 最後のロリコンくさい太めの男を残りでボコりながら、アパート横の路上に二人を並べて膝立ちに座らせていた。両手も頭の後ろに組ませているため、咄嗟に動くことが難しい体勢だ。

「にしてもさ~」

「なに?」

 意識を向けられているとはいえ、今は片手間に変態発言する男を『仲間外れ』にすべくけなしている最中なので、リナ達が話していても、注意する者はいなかった。

「あのおっちゃん達クロのこと若干睨んでなかった? 一体何したの?」

「何って……逃げるために連中ごと研究施設爆破したら流石に怒るでしょ?」

「そりゃそう……ちょっと待って、クロ。ワタシって例の黒幕の娘かもしれないんだよ、ね……」

 リナは小声でクロに、今思いついたことを尋ねてみた。




「もしかして……ワタシの記憶喪失って、クロがやった爆発のせいじゃないの?」

「……ごめん、今まで黙ってたけど、時期的にその可能性、けっこう高い」




「さて話を戻……何やってんだお前等?」

 頭の後ろで手を組んだまま、折りたたんだ肘でクロの頭を何度も小突くリナを見て、襲撃者の一人は呆れて腰に手を当てた。

「制裁」

「を受けています」

「まあいいけど……とりあえず話を戻すから、そこの嬢ちゃんはじっとしてろ」

 とはいえ話は単純で、実験体の報復兼口封じに来たところに、今まで行方不明だった研究記録クロを見つけたので、むしろそちらを優先すべきではないかという話になっているのだ。

「で、今指示を仰いだら、まずお前を連れて来いとさ。というわけでこっちに来い」

「……彼女はどうなる?」

 リナの安否を気遣うクロに、襲撃者は肩を竦めて答える。

「悪いが、殺すしかないな。薬漬けは手間だし、後ろの変態は犯したがってるが、援交やってる人間が、レイプ程度で精神崩壊するとは思えんしな」

 むしろ、暴走するから助かる可能性高いんだけどな~。

 等と内心考えるリナだが、助からないとみて、思ったより早い人生の終わりだなぁ、と諦めかけた。

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