012 VS通り魔3
今度は通り魔の方が襲いかかってきた。
とはいえいくら拳銃を振り回そうとも、どれだけ修羅場を潜ろうとも、結局はただ援助交際していきがっている小娘二人である。
『ぎゃあぁぁぁぁ!!!!』
だから二人は全力で逃げ出した。拳銃を撃ったり、道端に転がっている物を棍棒で叩き飛ばしたりしても、その勢いは止まらない。
「そうだ、これは夢だ。目が覚めたらかわいいペットの用意してくれた、あったかい朝ご飯がワタシを待っているんだ!!」
「あんたの朝ご飯は世間では晩飯って言うんだ覚えとけ!! つかあれかわいいの!?」
しかし通り魔の方も何かのスイッチが入ったのか、今度は逃げずにリナ達を追いかけてくる。しかも今度は襲いかかる銃弾をかわし、飛んでくる障害物を巧みに避けてきていた。
「バイクで逃げる!!」
「エンジンかける前に捕まる。他に武器は!?」
そこでようやく、クロのくれた秘密兵器の存在を思い出した。囮の猿芝居に向かう前に公園で試していたので、その効力も十分承知している。
……だが相手の方が早かった。
「追いついてきたっ!!」
「こなくそっ!!」
リナを前方に蹴りとばしたミサは、
「ぎゃっ!?」
その勢いで反転し、棍棒を突き出すようにして身構えた。リーチは短いが、突きならば振り降ろすよりも勢いがある上に点での攻撃、防ぐのは難しいからだ。
そう、防ぐのは難しかった。
「なっ!?」
「ミサ右っ!!」
しかし点である以上、面での制圧はできない。普段から喧嘩っ早い、簡単に突撃してくる直情的な男達を相手にしていた分、『かわす』という当たり前の動作を忘れていたのだ。
右の壁に飛びつくようにして避けた通り魔は、そのまま壁を踏み台にしてミサに跳び蹴りをかました。
「がっ!?」
「ミサっ!?」
身体をひねってとっさに巻き戻した腕で防御したのはいいが、体格差がもろにでてしまい、ミサは反対の壁に叩きつけられてしまった。
リナも発砲しつつ通り魔を牽制し、ミサの元に駆けつけようとしたが、今度の標的はそのリナだった。
「なっ、こっ、このっ!!」
引き金を引く度に、通り魔の男が飛び出した眼球を動かし、それに合わせて身体が飛んでくる弾丸をかわしてくる。
(やっぱりか……あの男)
脳震盪を起こしたのか、まともに立ち上がれないミサは、顔だけを向けてリナ達の攻防を見つめた。そこで見たのは、異形の顔めがけて発砲するリナと、放たれた銃弾を縦横無尽に駆けてかわす通り魔の男だった。
(銃口と引き金を見ただけで弾丸をかわしてる……)
とうとうリナは追いつめられ、首を握られたまま壁に叩きつけられた。その衝撃で銃も落としてしまっているが、銃身のスライドが下がりきっている。もう弾切れなのだ。
「ぐぐっ……」
リナのピンチであるにも関わらず、ミサは朦朧とする意識の中、通り魔の力の正体を解き明かした。
暗がりを好むのは不意打ちを狙うだけでなく、単純に得意な領域であること。昼間にでないのは、目を布で覆っていても、日差しが眩しすぎてでてくることができないから。おまけに動く物体に対しても、即座に見極めて脳に命令を送ることができる。それが早すぎるから、身体の方が追いつくことができていなかったのだ。
つまり……
(あいつ……目が良すぎるっ!!)
通り魔の正体は、視力特化の異形だった。
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