006 後日談
通報したのはクロだった。
通り魔が昼間も出歩いている可能性を指摘した途端、駆け出した二人を見て万が一があっては困る、そのために携帯で電話をしたのだ。場所に関しては、この前の闇金業者との一件で興味半分に、あらかじめ発信器を仕込んでいたので、リナ達の居場所はすぐにわかった。
もしかしたら、通り魔に遭遇せずに警察に捕まるかもとは考えたのだが、大丈夫かとクロはそのまま通報したのだ。
それを帰ってから聞いたリナは、
「タイミング的には助かったけど、今度からは事前に言っといてよね~」
とスクバの中に入っていた発信器を弄びながらつぶやく。
発信器そのものは捨てられた古い機種の
「……というかクロ、携帯持ってたの?」
「一方的にかけることしかできないけどね。メアドはともかく、これ電話番号はないし」
だから逆探知の心配もないよ、とクロは話したが、詳しくは聞かないでおこう、とリナは思った。
とりあえず腰を下ろし、再び襲ってきた眠気を堪えて欠伸を噛み殺す。
「今日はもうおやすみ。……ああ、そうだ」
寝間着に着替えるのも億劫なのか、外へ出るのに慌てて着込んだ私服代わりの制服を腰掛けたまま脱ぎ捨て、下着のまま布団に潜り込む。
「ミサから電話来たら、代わりに出といて。それ以外は無視していいから」
「……了解、おやすみ」
投げ渡されたアップルフォンを受け取り、クロはリナが眠り込むのを眺めながら、胡坐をかいて考え込むように俯いた。
「目を含めた全身を黒い布で覆った通り魔。同一犯は確実で、基本は夜に活動する。……まさか、な」
クロは眠ることなく、リナが起きるまでその通り魔のことを考え続けた。
結局、ミサが連絡を寄越したのは翌日のことだった。
早朝にかかってきた電話で聞かされたのは、通り魔が未だに見つからないこととアカネが入院している病院の名前、そして……アカネの家族が引き取りに来たことだった。
「えびな……って何?」
『新聞読むかあんたのペットに聞け。蛯名財閥っていったら貿易を中心に利益を上げている大財閥でしょうが。そんなことも知らないの?』
「だって興味ないし……というか、本当なの?」
朝方だと流石に寒いのか、ブラウスを羽織っただけのリナは、アップルフォン越しにミサに尋ねた。
「アカネがその蛯名財閥とかいうところのお嬢様だってのは」
『間違いないみたいよ。警察の知り合いから聞いたら、前々から捜索願が出されてたんだって。……まあ、流石に表沙汰に出来なかったのか、知ってるのは口の堅い人間に限られていたらしいけど』
煙草の煙を燻らせる。話が話だけに、若干思考が追い付いていなかったのだ。
『ま、何にしても一回見舞いに行くわよ。昼過ぎには迎えに行くから……ちゃんと起きてろよこら』
「りょ~かい、わかってるって。……ああ、でも」
『でも何?』
灰を落とし、ほとんどフィルターだけになった煙草を灰皿に押し付けながら、リナは呟いた。
「……あの話、どうする?」
『とりあえず行ってみる。それで判断するしかないでしょ』
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