007 売人
リナの援助交際には、数は少ないが固定客もいる。そのうちの一人が、リナに銃を都合した売人だった。
名前はゴロウ。東洋系の顔立ちだが、中国人の血が混ざっているのではとリナは考えている。実際、彼は中国語も話せるらしい。本当かどうかはリナにもわからないが。
「……ペット?」
「というか、ホームレス拾ったのよ。……この前ね」
髪をかき上げながら口を動かすリナ。人気のない駐車場に駐車してある車の中、リナはゴロウの股座に近づけていた顔を上げ、乱れた髪を手櫛で整え始めていた。
「……それで、見様見真似で整備したけど大丈夫かって確認頼まれたのよ。大丈夫そう?」
「見た感じはな……」
ゴロウは受け取っていた拳銃の動作確認を行っていく。一通り動かして、問題ないとみるとリナの膝の上に放った。
「問題なさそうだな。ガンオイルの塗りが若干不均等だが、これくらいなら許容範囲だろう」
「そう、それはよかった」
いつもとは違い、リナの顔に明るさはなかった。相手が銃器を捌く売人だから油断ならないということもあるが、もう一つ、彼女の勘が告げていたのだ。
……何か隠している、と。
「というか、こんな小娘一人毎回買わなくても、借金で潰れた家の娘とか丸ごと買おうと思えば買えるんじゃないの?」
「その分手間が多い。それに、危ない橋は無駄に渡らないことがこの業界で生きていくコツだ」
「ふぅん……」
成程、お互い様か。とリナは内心で結論付けた。
確かに信用しているが、それは契約内での話だ。援助交際と武器売買の取引は誠実に取り組んではいても、それ以外だと確実に裏切るだろう。いや、もし契約内でも不利益を被れば、互いに攻撃することもあるかもしれない。
だから信用できても油断ならない相手だと、理解できてしまうのだろう。
「それよりも」
「ん?」
代金と紙袋に詰められた弾丸を受け取り、中身を確認しているリナに、ゴロウは更に話しかけた。
「その男、信用できるのか?」
「信用、か……」
リナの脳裏に思い描くのは、今は家で大人しく待っている青年、クロとの出会いだった。
確かに、互いに名乗りもしないでなんで家に連れてきたのだろう、と考えたリナだが、ふとどうでもいいことだと悟って思考を放棄した。
「信用してないし、する必要もないね」
「は?」
出会った頃を思い出しながら、リナはゴロウに苦笑を向けた。
「別に裏切ってもいいんだよねぇ……」
「……だって、ペットが牙剥いたって、飼い主はいちいち取り合わないでしょ?」
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