002 粉薬

「ん~」

「なにそれ?」

 家の中でリナが胡坐をかきながら、小さな袋を掲げていた。中には白い粉末が封入されている。

「昨日のお客さんから貰ったんだよね~」

「薬かな?」

 青年はリナから袋を受け取り、少し開けて中身を嗅ぐ。無臭だが、少し日光に翳したらすぐに水素臭が漂ってきた。

「もしかしたら……麻薬だったりして?」

「残念、これ毒薬」

 青年は袋を閉じると、ゴミ箱の中へと放り込んだ。

「青酸系の毒物だよ。大方、一緒に死んで欲しいと思われたんだろうね」

「あ~確かに、気に入られてたっぽいからなぁ」

 納得顔のリナは、ゴミ箱の中を覗き込んだ。

「でもあれって、アーモンド臭がするんじゃないの?」

「それは胃酸と反応した場合。普段は無臭だよ」

 よくある間違いを正しながら、青年は工具箱を片付け始めた。リナは何かに使えないか、とゴミ箱に転がっている粉薬を眺めていたが、特に思いつかなかったので目を逸らして立ち上がった。

「……ところで」

「ん?」

 アイスを咥えながら振り返ったリナに、青年はポータブルテレビをセットしながら話しかけた。

「その薬をくれたお客はどうなったの?」

「そういえば、別れたっきりだったから……」

 電源を入れてアンテナを操作していると、丁度ニュースが流れていた。内容はホテルの中で自殺した男のことで、毒物を飲んだために死んだらしい。

「……あれ、ワタシがいたホテルだ」

「忘れ物は?」

「ない。……あ、でも指紋が残ってるかも。あと監視カメラ」

 こればっかりはどうしようもないが、警察が他殺の線で調べないことを祈るしかない。

『なお、男性が遺した遺書に書かれた女性が、間違って薬物を摂取する恐れがあるとみて、テレビで呼びかけると同時に捜査に乗り出すとの方針を示しました。監視カメラの映像に残されていた、同伴していた女性の特徴は長い黒髪の……』

「……黒髪?」

 一瞬別の人間のニュースだったか、と青年は思ったが、リナがスクバから取り出した黒のウィッグを見て納得した。

「いや、弁護士とか言ってたから、行き帰りだけは用心で、ね」

「買ったの?」

「前に通販で」

 その言葉通り大分経っているのか、ウィッグは所々傷んでいた。

「貸して、直しておくよ」

「よろしく~」

 青年はリナの化粧道具を幾つか借り、手入れを始めた。

 リナは未だ眠いのか、布団に横になっている。

「今日は仕事もないし、もう少ししたら買い物に行こっか」

「了解、それまでは大人しく直してる」

 静かに時が流れる中、テレビのニュースは未だに流れている。

『死亡した男性は○○○○、37歳。弁護士でしたが数か月前、暴力団から多額の賄賂を受け取ったとして弁護士資格を剥奪されています。無職となったことで生きる気力を失ったための行動と警察は見ており……』

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