第3話 参加者たち(1)
空が見える。
クルーズ客船の唯一開けた場所に来た一人の男は額に汗を滲ませ、肩で息をしていた。
「き、聞いてねぇぞ……」
男は黒のTシャツにジーパンととてもラフな格好をしている。
そんな彼のところへ一人の少女が歩いて来る。
「もう追いつかれたのか⁉」
彼は、景壱と白兎と同じく
彼──
結果、弓庭が勝利している。
だから美羽は弓庭に執着し、奪われてしまった生存ポイントを取り返そうと躍起になっていた。その中には復讐なる言葉は微量ながら含まれていることだろう。
美羽は木刀を構える。
「やっと追い詰めたぞ」
それを見た弓庭も弓の右に桃色の矢を構え
プールを挟んでお互いの間に沈黙と緊張が走る。
時が止まった世界。動くはずのない空が二人の行く末を見届ける。
そして、弓庭は引いていた手を離した。
桃色に光る矢は美羽の元へ飛んで行った。
先ほど放った矢で決着がつくとは微塵も思っていない弓庭はすぐさま弓の右に矢を構え弦を引き、もう一度撃てる状況を作り出す。
弓庭の放った矢を戦闘開始の合図と捉えた美羽は木刀を持った手でそれを勢いよく薙ぎ払った。
そこで美羽は木刀の能力を発動させようとする。
片手で握っていた木刀を両手に持ち換え、腰を捻り、後ろに構えた木刀を腰を戻す勢いに乗せて横薙ぎを決める。
「はっ!」
すると、本来はプールを挟んでいるため弓庭に届くはずのない距離を木刀の能力──伸縮性が発動したことによって容易く届くこととなってしまった。
弓庭は彼女の能力を知っているので屈んで対処した。
この技は初見だと難しいだろう。彼女が他の参加者の元へ行ってなくて良かったと言える。それは彼女だけじゃない。星空もそうだ。
弓庭が彼女に勝利したのは手数の多さ故。それをわかっている当の本人は再び矢を放った。
続けてもう5回、矢を放つ。
彼女が防戦一択になるようにとのことである。
しかし、状況が状況であった。
ここには弓庭と美羽の二人だけではないと言うこと。ゲームの始まり、幕が開いたその先に待ち構えていた能面たちの仲間もここに来てしまった。
槍を持った者、
能面たちは美羽の味方であり、援護をしてくれる存在だ。そのことを知らない弓庭は彼女を素通りした能面たちに不公平感を抱く。
「くっそ!」
差し向かいであれば美羽に負けることはないだろうが、3対1ともなれば話は大きく違ってくる。
近距離向きでない弓庭のユニークはこう言う状況では近距離戦闘の行える者がいると助かるのだが、今はそこを頼ることはできない。
だからこそ、弓庭は一旦退くことを優先させる。
そんな弓庭を見て美羽は憤慨に頬を染め、
「逃げるんじゃない!」
と叫んだ。
ここまで来るだけで方向音痴を存分に発揮した彼女の苦悩を弓庭は知らない。
だからこそ弓庭は走りながら振り向き、
「逃げるに決まってんだろ! バーカ!」
と、彼女を煽るように躊躇いもなく舌を出した。
「ぐぬぬぬ」
一度負けた相手に馬鹿呼ばわりされたことで、頭から湯気が立ち昇りそうなほど頬を真っ赤に染め上げ、怒りと悔しさで瞳は潤んでいた。
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