第2話 狂気とマスク(1)
反撃と言われ、景壱はナイフを持つ手に力が入る。
「もうあとがないにゃ~、うふふふ」
情緒不安定な彼女に景壱は身の毛がよだった。
(こんな異常者初めて見た……せっかく可愛い顔してんのに勿体ないだろ)
そんなことを思う。
景壱は彼女の出方を注意深く伺う。
厄介な三つのブーメランは既に彼女の背後に浮いている。それがいつ飛んで来るかわからない。ただ、走って逃げられることは先ほどわかったのでそこまで脅威ではないが、ナイフに貫かれて生きている彼女の異常性にどう対抗したものか。
「なんで生きてやがるんだよ」
捨て台詞のように言った。
「別に不思議なことじゃないわ~、生存ポイントが削られるだけよ~」
「そりゃなんだ。どうやってわかる」
「スマホ見ればわかるわ~。でも、そんな暇を与えないけどね!」
景壱が一瞬、スマホをポケットから取り出そうとしたのを狙って一つのブーメランが飛んで来た。
「うわっつ!」
咄嗟に飛び退けて間一髪、髪の毛が擦れる程度で回避することができた。
(そんな不意打ちありかよ。教えてくれる流れだったじゃん)
愚痴を心中で零しながらも彼女から目線を逸らさない。いつ攻撃を仕掛けて来るかわからないからだ。
「意外とすばしっこい! さっさと当たってくれるぅ」
「素直に当たるかよ!」
「きゃはは! こわ~い」
(怖いのはこっちだって)
そんなことを思っていると、不意に彼女が景壱の名を呼んだ。
「砂島景壱って言うんだね! きゃは! それに生存ポイントはっぴゃくしかないなんて絶望的ね~」
「──⁉」
(何で俺の名前を……どうなってんだ)
景壱は彼女の方に顔を向ける。
すると、彼女はスマホのレンズを景壱に向けて撮影しているような動きをしていた。
(スマホでわかったのか)
そう思い、景壱は走りながらポケットのスマホを取り出した。
(こ、こうか?)
何となく、彼女の動きを真似する。
とたん、画面上に正二十面体の図形がくるくると回り始めたあと、カメラが起動した。
カメラの顔認証システムが小顔な彼女を捉えると、その上部に名前と生存ポイントが表示された。
【
(あいつ……人のこと言えねぇじゃん)
景壱は、自分よりも生存ポイントが低いことを知り安堵した。
「覗き見とか変態!」
(お互い様だろ)
と、思いつつ、彼女──星空の隙を伺う。が、全てのブーメランを投げてこないことから察するに星空は景壱のナイフを警戒していた。
景壱に残された勝機は一本のナイフだけ、これを無駄にはできない。
(落ちたナイフを取りに行ければ……)
コンクリートに突き刺さったナイフや横たわるナイフを視界に入れる。
(くっそ! ブーメランが邪魔だ)
走りながら心中で嘆く。
「すばしっこいな~。死んで」
星空はボソッとそう言って、二つ目のブーメランを放った。
刃の回転する音が地下内に一つ増えた。
「うおおおおおお!」
二撃目のブーメランが景壱の真正面から迫りくる。
すぐさま方向転換。気がつけば彼女の元に向かって走っていた。
(やば!)
思って気持ち強めに地面を蹴って右方向へ再び方向転換。
二つのブーメランが景壱を追い、残ったブーメランは星空の背後に浮いて守護している。
防戦一方となった景壱は体力が尽きるまでになんとか打開策を考えたいところ。しかし、普段の授業をまともに受けない彼が果たしてそんなことは可能なのか。
(わからん……ただ逃げること以外思い浮かばねぇ)
そんな景壱はちょっとした覚悟を決める。
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