アクトゥワリサード(5)
景壱の手から離れたナイフは彼女を捉え突き進む。が、真正面の六芒星のブーメランに防がれてしまい、互いに弾かれ力なく落下する。
(よし、あとは左右だけだ)
狙っていたかのようにそう言って、真正面のブーメランが弾かれたことで景壱は後方へ跳躍、左右からのブーメランは互いに弾かれた。
甲高い金属音と共に弾かれたブーメランは意思を持っているかのように再び回転を始め景壱を襲う準備を整える。
「私の愛からは逃げられないよ! きゃは!」
口元に手の平を添えて言った。
彼女から凶器の笑みを向けられた景壱。身震いを起こし、全力疾走で二つのブーメランから逃げる。
(このままだと体力が)
いくら身体能力が通常より高いとは言っても限界がある。
(だったら……)
このゲームはデスゲームではないことを知っている景壱は追尾型のブーメランを撒く方法を思い付く。
彼女から離れていた景壱は全力疾走のまま弧を描くように走り出した。
「逃げても無駄だよ! きゃは!」
地下だからか彼女の高音が数秒間の反響を起こす。
彼女は景壱のナイフによって落とされたブーメランを念力的な力で浮かせると、それを景壱に目掛けて放つ。
(それでいい)
景壱は自然なまでのにやけ面で彼女を柱の間からチラ見しながら様子を伺う。
そして、弧を描いていた景壱は彼女の気がつかないところで背後を取り距離を縮めていた。彼女がそれを視界に捉えた時には景壱は彼女に向かって走って来ていた。
「ちょっ! こっちに来るなあああ!」
彼女は景壱を追尾する三つのブーメランを見て何をしようとしているのかを察し前方に逃げる。
(今のあいつは丸腰だ、俺にはあと二つの投げナイフがある。勝てるな)
ブーメランが追尾している間、彼女は自分を守る手段を持たない。モノクルサイトより性能は高いが、そこが弱点で、景壱はそこを狙っていたのだ。
けれど、走り回る彼女をモノクルサイトで捉えようと試みるが、五秒経つ前にモノクルサイトの範囲から出てしまうのでなかなか照準マークが定まらない。
(すばしっこいな)
武器の能力をなぜか解除しない彼女は混乱していた。
モノクルサイトを見た時から自身と同じ性能を発揮すると予想していたから、今の彼女はそれから逃げることに必死なのだ。
今までの威勢はどこへ行ったのか、彼女は女の子走りでモノクルサイトの照準範囲から逃げることに精一杯である。
三つのブーメランに追いかけられる景壱、その景壱に追いかけられる彼女。この構図がしばらく続き。
「はぁあ、はぁあ」
艶めかしい呼吸をしながら先にばてたのは彼女の方だった。
徐々に走る速度は低下、遂にはモノクルサイトに捉えられてしまった。
(よし! これで……)
照準マークが緑色に変わったのと同時、素早くナイフを投げつける。
ビュン!
風切り音が地下内に響く。
ナイフは軌道線状に彼女を捉え、彼女は抵抗する暇すらなく左胸を撃ち抜かれた。
「うぐっ……」
貫通したナイフはコンクリートの地面に突き刺さった。彼女はその場に仰向けに倒れる。
(勝った!)
景壱は心中でガッツポーズを決める。
しかし、
「あ~あ、危なかった~」
「え……?」
心臓を貫かれたはずの彼女は仰向けに倒れた状態で薄暗く光る蛍光灯を見ながらニッと怪しげに微笑むと服に付着した砂を払いながらその場に立ち上がった。
「どう、なってんだ……」
(確実に命中した。普通は死んでるぞ。もしかして人間じゃないのか⁉)
そう考える方が自然だった。
よく見ると貫かれた左胸からは赤い液体は滴ってはなく、空いた傷口は
(……人間じゃねえ)
引いてしまっている景壱の前、笑みを崩さない彼女が口を開く。
「私の反撃かしら~」
天井に顔を向け、両手で頬をいやらしく撫でる。
その姿はまるで殺人鬼を思わせた。
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