失敗続きの私は、君のおかげで笑顔になる
「で、ここの言葉はこう解釈すれば、この人の気持ちが分かる。どうだ、コツをつかめば結構わかりやすいだろ?」
「なるほど。さっすが奏、頼りになるな」
「へへ、それほどでも…」
「いやいや、謙遜すんなって、本当に助かるよ。…ところで奏。君、いつまでその正座の儀式を続けるの?」
響につっこまれて自分の太腿に視線を移す。もうかれこれ、数時間正座をしているので、立ち上がった時の反動はとんでもないものになるだろう。
しかし、私は正座を続けねばならなかった。先ほどのような気の緩みからくる失態を犯さないために!
「…己を許せるまで」
「…トイレ行きたくなったらすぐ言えよ?珈琲飲んでいると近くなるからな」
響は呆れを通り越して、こいつ大丈夫かな…と言わんばかりの不安そうな表情をする。大丈夫だよ、響。さっきみたいな失敗をしないように私、頑張るから!
だから、そんな残念な子を見るような目をしないで…
「まぁ、良いや。えっと、あと、この文なんだけど、どう訳せば良いの?」
「あぁ、それね。えっと、それは辞書を見るとわかりやすいから、ちょっと待―」
正座の姿勢から膝立ちになって、腕を伸ばして辞書を取ろうした、その時
私の足に電流が走る。
ビリッ
「いづぅ!!」
「あっ、馬鹿!奏」
長時間の正座で血が通っていなかった足に一気に血が流れ始め、両足の感覚が戻ってくると同時に、自由が効かなくなる。机にダイブするのを阻止するため、咄嗟に体勢を横に逸らすが、
ガンッ
「いでぇ!」
「奏くん!?」
机の角に横腹を思いっきりぶつけてしまう。漢らしい悲鳴を上げて、私はそのまま
ゴロリンッ!
「ぎゃん!」
「のわっ!」
響のお膝元にダイブしてしまう。そして、そのまま痛みで動けなくなり、胡座を組んでいる響の足の上に身を預ける事になった。倒れた衝撃で服が捲れて、お腹と腰が丸出しになってしまったが、今の私には痛みでそれを正す余裕も無かった。
そんな私を見て、響は溜息をつく。
「奏くん。君って勉強できるけど、ちょっとアホだよね…」
「…マジでごめん」
失態続きの私はどんな顔で彼を見て良いかわからず、うつ伏せになって床を見ることしかできないのであった。
少しずつ腹部の痛みが引いてくると同時にお腹がひんやりしてきたので、響に申し訳ないと思いつつもお願いした。
「えっと、響ごめん。お腹しまって貰って良い?」
「えっ?あぁ、良いけど…って、えっ?」
私のお願いをきいてくれた響の言葉が詰まる。
えっ、私の腰、何か変かな?
不思議に思い、彼に問いかける。
「どうかした、響?俺の腰、何かおかしい?」
「えっ、いや、おかしくは無いけど。何と言うか…」
「お前の腰、白くて綺麗だなーと思って…」
響の言葉を聞いて、意味を理解するまでに時間がかかり、そして、わかった瞬間、私の体温が急上昇した。
「な、えっ、何言ってんだよ!てか、マジマジ見るな!この変態!」
「ちょっ!お前が勝手にドジやらかしたのに、その言い方は酷くない!?」
「…うん、その通り。それに関してはごめんなさい。いや、でも、人の腰をじっと見る響はやっぱり変態だよ!自分も上半身裸になるし、どれだけ人の裸体に興味あるんだ!」
「この野郎…人が優しい態度をとっていれば、つけ上がりやがって。なら、俺にも考えがある」
いつもと雰囲気の違う響に不安を覚え、チラリと見るとふふふ…と良からぬ事を考えている顔をしていた。
何となくだけど、今の響はヤバい!
「くっ、何をする気か知らんが、辱めるくらいなら殺せ!」
「…どこで覚えたの?そんな言葉。あと、それ普通女の子が言うものだから。まぁ、良い。貴様には死より辛い目に合わせてくれるわ」
変に悪ノリしたせいで響もノリノリになってしまう。
不味い!この響は本当に死より辛い目に合わせてくる気だ!
「くそっ!させるか」
「甘いわ!小童!」
両手で響の悪巧みを阻止しようとするも、あっさりと彼の片手で抑えられてしまう。
いたたたた!この力の配分、完全に男用だ。両手が全く動かない。
ピタッ
「ひゃん!」
響が急に冷たい右手を脇腹に当てるので、思わず『奏』である事を忘れ、リアクションしてしまう。
あ、しまった。今の声は完全に乙女のボイスだったな…
チラッと響を見ると
「…」
私から顔を逸らしてプルプルしていた。
どうしたのかな、響?
「あのー、響くん?」
「くっ、まさかの不意打ちで油断してしまった」
…私、何か不意打ちとかしたかな?あと、何で君、顔赤いの?
「しかし、次はそうはいかん!貴様にはくれてやるのは…」
ガシッ
「ひっ…!」
響は悪い顔をしながら、私の脇腹を思いっきり掴み、ニヤリと笑う。
「くすぐりの刑だ!」
こしょこしょ…
「ひゃっ!バカ、響、やめ…、あ、ははははは!」
足が痺れて立ち上がれない私に、響は容赦なく無防備な脇腹をくすぐってくる。あまりのくすぐったさに、手にも力が入らず、ものの数秒で私は大人しく刑を受ける羽目になった。
「ひびっ、もう、やっ…あ、ははっは!いいかげっ!あ、ひゃひゃ、はは!」
「…」
私の笑い声はもはや人の言葉では無くなり、響はそんな私を無言で見つめ、淡々とくすぐりの刑を執行している。
というか、響!せめて、何か喋って!無言でやられると恐怖を感じ…
こしょこしょ…
「あはははっ、ひび、くるしっ!ひゃー、はははー!」
「…」
もうダメ苦し…、このままだとマズっ…
その時、私に下半身に電流が走った。
あ、いけない。この感覚は危ない。さっき、珈琲の飲みすぎたせいで、お手あら…
ピタッ…
「奏?」
職人のごとく黙々と私をくすぐっていた響も、急に動きが止まった私を見て、不安になったのか脇腹を擽る手を止める。
…ここしか、チャンスは無い!
「響!」
「えっ!?何…」
我慢の限界がきていたので目が潤んで、顔が熱くなってきていたが、人として最後の尊厳を守るため、響に訴えた。
「もう、許して…。はぁ…、これ以上は、わた…、俺、ダメになる、からっ…」
「…」
私の言葉を聞いて、石のように固まる響。あっ、よくよく考えたら、逆にこれ、響の加虐心を刺激したかな…。
あぁ、お願い、響。もう許して…。これ以上続けられると、星空奏、高校生活最大の汚点が生ま…
かぁ…
「響?」
私の予想とは異なり、響は茹でた蛸の様に顔が真っ赤になっていき、
サッ…
捲れ上がってしまった私の服を正して、顔をプイっと逸らして、一言。
「…マジでごめん」
「えっ、あぁ、別にいいけど…」
何とか漏ら…、じゃなかった!そ そ う!せずに済んだしね…。
てか、響。私の風邪、うつったかな?さっきから、この子、ちょくちょく顔赤いけど…
耳まで赤くなっていた響に何だか声をかけづらかったので、足の痺れが治まるまで、彼の太腿の上にお世話になる私であった。
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