私は彼の背中を見て問う
ええっと、神様…。確かに私は言いました。
『響の事がもっと知りたいな』
と。いやでもね?それは響の好きな食べ物とかー、趣味とかー、嫌いな物とかー、そういったものがね?知りたかったわけですよ。決して、身体構造が知りたかった訳では無いのですよ…。だからね。神様、言わせて貰うね…
『なんで私は今、同級生の半裸を見せられているの!?それも、その人の部屋の中で!!』
いやいや、何これ!?ナニコレ!?なにこれぇぇ!?
あっ、これが賊に言う『男同士の裸の付き合い』ってやつ?あぁ、なるほど。これで響君と仲良くなるって事?納得ー!!ってするかい!!
頭の中でボケとつっこみが物凄い速さで繰り広げられ、額の熱がドンドン高くなっていく。
響は牛乳を片手に、頭に?マークを浮かべたような顔をしており、
「奏、大丈夫?お前、まだ顔真っ赤だぞ?熱、測る?」
と言って近づいてくる。半裸の男が迫ってくる光景に、
私の中で何が『死守せよ!!』と言った気がして
「う、うわー!!誰か助けてー!露出狂に暴行されるー!!」
と叫んで、響に枕を投げつけた。
「ちょっ、おま!マジでシャレにならないぞ、その言葉!って、うわっ!危ねっ!牛乳が!!」
突然、枕を投げつけられた響は即座に対応できず、手に持っていた牛乳をこぼしそうになる。
でもね、響!私は牛乳がこぼれる事よりも、君のその格好の方がはるかに問題だと思うよ!!
「な、なんで、お前はいつも、俺の前で半裸なんだ!というか、今回に至ってはほぼ全裸じゃないか!?ひょっとして、ワザとか!?ワザと俺の前で裸体を見せつけるニュータイプの変態なのか!?」
「さっきの件と良い、お前は一体、俺の事をどんな目で見てんの!?そろそろ、泣くよ!出会って間もない君の前だけど、本気で泣いちゃうよ!」
泣きたいのはこっちだよ、響!!あわわわわ、どうしよう!どうしよう!
そうだ!こういう時の為に参考文献が使えるはずだ!えーっと、確か、ドキドキ(以下略)にも、こんなシーンあったな。えーっと、その時、ヒロインは…。
あっ、ダメだ!アイツ、王子様の半裸見て鼻血出して、倒れていただけだ!ちくしょー!!なんて使えない参考文献を電子書籍でまとめ買いしたんだ!私のアホ!!
発熱でシューシューと音が鳴っているのでは、と思うほど、頭はどんどん熱くなっていく。病人の介護をしていたのに、暴言を吐かれた可哀想な響はそれでも私を心配してくれた。
「奏、マジで大丈夫?何か、どんどん赤くなってない?」
私を心配して、近づいてくれる優しい響。
しかし、そんな響に対して熱暴走した私は遂に我慢の限界が来て、大声で吠えてしまった。
「良いから!頼むから!服を着ろ!!この、変態響ー!!」
後日、私の叫び声を聞いていた管理人さんから響は「せっかく来た寮生に、わいせつ行為すんな!!」と怒られたそうです。…ごめんよ、響。
「グスン…、せっかく看病してあげたのに。ご飯まで作ってあげて、お風呂も新湯沸かしてあげたのに…」
部屋の隅で体育座りをして、響は落ち込む。
「…悪かったよ、ごめん。でも、響だって悪いだろ!いくらなんでも、ポンポン脱ぎ過ぎじゃ無い?お前!」
「仕方ないだろ。この部屋、脱衣所無いし…。それに俺は温泉好きおじさんだから、男の前で全裸になることにあんまり抵抗が無いっていうか」
へー、響、温泉も好きなのか。知らなかった。…こんな形で知りたくなかったな。
「はぁ、せっかく沸かした新湯も、奏くん、自分の部屋でシャワー浴びちゃったし、勿体ないけど流すか…」
「うっ、それは申し訳ない。ごめん」
その言葉を聞いて、響はふっ。と笑う。
「気にすんな。どうせ、光熱費は家賃に含まれているからお財布が痛む訳でも無いし。俺もなんか、その、お前に対しておせっかい焼きすぎた。でも、後はもう寝るだけだろ?だから、あともう数時間、おせっかい焼かせてくれよ」
「…ありがと。じゃあ、もう少しだけ、その、お願いします」
響のその笑顔と言葉を聞いて、少し寒くなった体が温かくなった気がした。
「んじゃ、電気消すぞー」
「ん、頼む」
響がリモコンで消灯する。
部屋から蛍光灯の明かりは消えたが、カーテンの隙間から月明かりが漏れていた。
「ここ、結構、月明かりが差し込むな」
「そうなんだよ。お陰で寝つけない夜はこの明るさが更に邪魔してくるんだよ…」
「ははは、せっかく綺麗な月明かりなのに。響らしいな」
「うるさいわい。俺はどっかの誰かさんと違って、寝つきが良い方ではないのだよ」
「…何も言えん」
その言葉を聞いて、ぷっ。と響は笑う。私もつられて笑ってしまう。
いつ以来だろう。こんな風に夜中に誰かと会話をしたのは…
「んじゃ、眠れるまで、お話しようぜ!響」
「どこの、修学旅行生だ、君は。まぁ、寝落ちするまでだったらな…」
「わーい!じゃあさ、じゃあさ…」
少し楽しくなった私は、
何となく。本当に何となく、だけど、響にこう問いかけて見たくなった。
「ねぇ、響は好きな女の子いるの?」
「…」
響は何も答えない。少し漏れた月明かりが、彼の背中を照らす。
もう寝てしまったのだろうか。それにしても
『私、何で、こんな事、聞きたくなったのかな…』
しばらくの間、何も答えない彼の背中を見て、諦めて目を瞑ろうとすると
「…今はいない。でも、いた事はある」
…ドキッ
響の答えを聞いて、少しだけ、心音が大きくなった。
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