風邪ひく私はあなたの事が知りたい…
「な、な、な、何で!?何で、響の部屋にいるの!?」
「何で!?って…、だって、奏、言っていただろ?部屋、散らかっているから、入らないで。って」
…言った。確かに私はそう言った。
そうだよねー。そうなってくると、自ずと選択肢は限られる訳で、響は至極もっともな判断をしたと言える。
あぁ、でも、じゃあ、私、ついさっきまで、昨日会ったばかりの男の子の部屋で寝ていたの?あ、あ、あわわわわわ…
「で、出る!床で、床で寝かせて頂きます!」
「えっ!?何で、俺、そんなに汚いと思われているの?大ショックだよ!こう見えても、おじさん、お風呂大好き人間だから、そこいらの高校生より凄く清潔だよ!」
ち、違うよ、ひぃびきぃー。私はただ、風邪をひいて沢山、汗をかいているし、熟睡して前みたいによだれを垂らす、とかが心配で~
「きゅ〜」
「あぁ、おい!奏!」
恥ずかしさが限界点を超え、頭がオーバーヒートする。
私はそのまま、ボフッ!と、響の枕に頭を埋める事になった。
「すいません…」
「全く、病人の仕事は大人しく寝てさっさと治す事だ。良いから、今日は俺の部屋で寝て、ちゃんと風邪を治す。はい!復唱!!」
「今日は響の部屋で寝て、ちゃんと風邪治します…」
「うむ!」
そう言って響は満足そうに頷く。
あぁ、もう、ほんとにこの人は…。そうだね。ここまでしてくれた、響に対して今私ができることはさっさと風邪を治す事だ。わかったよ、響。
「ありがとう。響、今日一日、お世話になるね」
「おぅ!」
そう言って響は楽しそうに笑ってくれた。
「そういや、奏。お前、飯は?」
「えっ?言われてみれば、何も食べてないな。あぁ、でも大丈夫だよ。風邪ひいて食欲な…」
ぐぅ〜
…漫画か?漫画の世界の住人なのか、私は?何で今、よりにもよってこんなタイミングで気持ちの良い音がお腹から出るの?
響を見るとジト目で私を見つめていた。お腹の音と響にちょっと嘘をついた後ろめたさで顔が熱くなる。私は掛け布団で顔を半分隠しながら、呟いた。
「…すいません。お腹空きました」
「はぁ…。だよな。良いよ、何か用意するから」
そう言って、響は椅子にかけてあった。布をヒョッイと取り、肩から掛けた。
その布は『エプロン』だった。
「お粥で良いか?ちょっとだけ、時間貰うぞ?」
「えっ、うん。良いけど…。って、響が作るの!?」
「えっ?当たり前だろ?こんな寒い中、コンビニに買いに行くのも嫌だし、お前をこの部屋に放置しておくのも不安だしな」
『へぇー、響、料理作れるのか。凄いなぁ…。あっ、というか私、家族以外で』
『男の人の手料理を食べるの、初めてかも…』
何故かわからないけど、その時は風邪の辛さも忘れてワクワクした。きっと、今の私を誰かが見たら、芝犬の様に尻尾を振って見え…
「そんな、お粥如きでワンコみたいに喜ぶなよ。全く、可愛いやつだな。奏くんは」
…どうやら、響には尻尾が見えたらしい。顔と頭があったかくなり、また熱暴走しそうだったので、料理ができるまで大人しく掛け布団の中に潜っていった。
「ほい、完成。味はあんまり保証しないけどな」
響の声を聞いて掛け布団から顔を出す。
『わーい、やったー。さてさて、響君の料理はどんな味…、んんっ!?』
小さなコタツの上に並べられている料理を見て、目玉が飛び出しそうになる。
「えっ?何これ!?響、お粥作るって言ったよね!?」
「えっ、そうだけど?もしかして、俺の料理ってお粥ってわからないほど下手くそ?」
「いや、そう言う訳じゃ無くて、その…」
実を言うとワンコみたいに尻尾を降りつつ喜んでいても、献立は『お粥』。
響には申し訳ないけど、白いお粥と梅干しぐらいかなー。と頭の中で想像していた。が、響が用意してくれたおかずの数は
軽く二十は越えていた。
「おかずの量、凄く無い!?」
というか、どうやって、こんな短時間で用意出来たの?
「仕方ないだろ?奏の好みがわからんから端から作るしか無かったんだよ。ちなみに説明すると右から梅干し、塩昆布、塩茹でした鳥のササミ、生姜の千切り、ネギの千切り、甘味噌、錦糸卵…」
「い、良い!全部言わないで、わかるし、大変だから!し、しかし、これは…」
ゴクッ
思わず喉がなる。あっ、ヤバい。最近、ずっとコンビニディナーかスーパーのお惣菜だったから、この匂いだけで…
ぐぅー、きゅー
…今日、この子の自己主張強く無い?しかも、二重奏まで奏でてくれちゃって!
響を見ると、クスクス笑っていた。
「腹減ったな、奏。一緒に食おうぜ」
「うん…」
小さく頷き、響の笑顔に応えた。
「ほいっ、茶碗。あっ、言っとくけどお客様用の物で、全く使ってないから新品同然だぞ。スプーンも百円ショップの物だから汚くないぞ!」
「そんなに潔癖症じゃ無いってば。悪かったよ、ベッドの一件では…」
その言葉を聞いて、響はニヤニヤと笑う。
『うぅ…、何か風邪ひいて調子悪いから、ずっと響にペース握られているな。もう、治ったら覚えといてよ。それにしても…』
改めてお粥+大量のおかずを見る。どれも非常に美味しそうだ。しかも、どのおかずも胃に優しそうなものばかりでちゃんと私の体調を考えて作ってくれている事がわかる。
響の方をチラッと見ると、響はふっ。と笑い
「いただきまーす」
と一言。私もそれに倣う。
「…いただきます」
おかずがありすぎて、どれから手をつけて良いか悩むが、とりあえず目についた錦糸卵に手を出す。
ふー、ふー、
パクッ
「…
あまりの
『えっ、えっ?お粥ってこんなに美味しかったけ?あっ、そうか、いつも食欲無いって言って梅干しだけで食べていたからだ。でも、このお粥の塩加減と良い、おかずとの相性と良い』
「響、凄いよ!これ!お粥ってこんなに美味しいんだね!!」
「えっ、そんなに?ま、まぁ、でも、そう言って貰えると作った甲斐があったと言うか…」
響は頰をポリポリかきながら、目を逸らす。
くー、このー、可愛い奴め。こんな優秀な隠しスキルを持っておきながら、自慢しないだとー。ふふ。今度、またこのネタでからかってやろ。
そう思いながら、さっきまで風邪で食欲が無くなっていることも忘れ、私は響の手料理をどんどん口に運んでいた。
「ふー、お腹いーっぱい。もう動けなーい」
「そりゃ、良かった。でも、奏。食べてすぐに寝るのは胃に良くないぞ。特にお前、落ちるの早いからな」
「はーい。気をつけまーす」
結局、響の手料理を完食した私は満腹で少し眠気が襲ってきたため、お行儀が悪いと思いつつも、彼のベットの上でゴロゴロしていた。
いやー、しかし、響のお粥は本当に美味しかったな。さっきは風邪で食欲なさ過ぎて辛かったけど、今は食べ過ぎて苦しいもん。体重、増えてないといいな…
でも、何で響こんなに料理上手なの?一人暮らしだとこんなレベルになるまで料理しないと…生きていけないの?
私もある程度はできるが、こんな短時間でおかずを何品も作る自信は無い。もし、ここまでしないと生活できないのであれば、割と一大事だ。
「響。一人暮らしってここまで料理上手じゃないとやっていけないの?」
少し不安になって響に問いかける。それを聞いた響はふっ。と笑う。
「そんなこと無いぞ。俺はその、小さい時から両親が海外で仕事していて家にいない事が多かったから、飯にうるさい妹を満足させるために勝手に上手くなっていった。って感じかな」
「えっ?響、妹さんがいるの?」
「ん?まぁ、年は三つくらい離れているのが一人」
そっか、響もお兄ちゃんなのか。なんか、私と共通点があって嬉しいな…。
「ふふっ」
「…なに急に笑っているんだよ?今の話、何か面白い所あった?」
「別にー」
ボフッ
そう言って、響の枕に顔を埋める。響は『変なやつだな…』と一言呟く。
響と私の意外な共通点。それを知れてちょっと嬉しくなる。
と同時に、私は思った。
『そう言えば、私は響の事を何も知らない…』
私はどうしても自分の真実を話すことはできない。
それでも、もし我儘が叶うのならば、
『響の事、もっと知りたいな…』
そう思って、私の意識は夢の中に落ちていった。
※
「ん…」
あぁ、私、寝てしまったのか…。って、よだれ!!は無いか、良かった。しかし、響の布団温かいな。今度、何のメーカーを使っているか聞こ―
「あっ、起きた。熱下がった?奏?」
「あぁ、響。おはよう。だいじょ―」
そこまで、言って言葉に詰まる。そして、大量の汗が流れ落ちる。
えぇ、そりゃあ、詰まりますとも。汗も滝の様に流れ落ちますとも。
だって、私の目の前に現れた響は
上半身裸で腰にタオルを巻いて、牛乳飲んでいるんですとも!!
「奏ー、お前、風呂どうすんの?」
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