こんな所で君と合うとは…:~彼女の場合~
「ん、あれ?あっ、やだ、私。電気つけたまま寝ていた…」
本日、二度目のうたた寝から目覚めて、さっそく自分の失態を軽く後悔する。
はぁ…。ほんと、あの人に勧められてこの男子寮に住んだのは正解かも。ここ、光熱費は全部、家賃込だもんね…
そう。私、『星空奏(偽)』の現在の住居は『
まさにお部屋暮らし大好きっ子には快適な空間ができるのだが
『まぁ、この学校の学園長が、こんな快適環境を簡単に提供してくれるわけは無く…』
入居条件は学年内で成績を半数より上、素行不良の無い学園生活、さらに、入居後も理由等なければ夕方以降の入居者以外の立ち入りを禁止と見方を変えれば、『快適な牢獄』と呼ばれる代物。思春期真っ盛りの高校生からしたらこんな窮屈な寮で生活する理由は無く、多少値がはっても自分でアパート借りて一人暮らしした方がマシという人がほとんどだった。
その結果、現在、ここに入居している人数は
「ほんと、聞いた時は信じられなかったよ。まさか、私の他に二人住んでいるだけで合計三人だって…」
しかも、内一人はほとんどこの寮にいないときた。
そのため、この寮は実質、その人と私しか住んでいない。
「一応、その人もこの階に住んでいるらしいから、落ち着いたら挨拶に行こう」
えーと、明日に備えて準備する事は、とりあえず、ご飯食べて、お風呂入って、シュークリームタイムを過ごして…
「あっ…」
今日のやる事リスト思い出しながら、この寮で生活する上で一点厄介な問題がある事を思い出した。
「あー、忘れていた。もう今から出ても、遅くても変わんないよね。シュークリーム食べて英気を養ってからにしよう…」
そう。この『快適な牢獄』で一点だけある問題点。それは、
「なんで洗濯機、部屋に置かないのよ。もぅ…」
部屋で『洗濯』ができないのだ
「いっただきまーす!!」
パクッ…
「はわっ!美味しい!!あぁ、今日の苦労が洗われる…」
コンビニで買ったいつもよりちょっと高い期間限定のシュークリームと紅茶で至福の時間を過ごす。こんなんでここまで喜ぶとか、安い
ドッサリ…
しかし、幸せの時間とは短いもので、私の視野に部屋の隅っこで悲しいオーラを発している、洗濯物がたっぷり詰まった籠が映る。
『あぁ、ずっとこのままシュークリーム食べていたいけど、そうはいかないのよね。でも、本当に面倒くさいなぁ…』
私がこの寮で洗濯を敬遠していた理由は三つある。
まず、一つは誰が何を洗ったかわからない洗濯機を使いたくないため。細かい奴め!と言われそうだが、嫌なものは嫌なのだ。現に思春期の女の子は『パパのパンツと一緒に洗濯しないで!!』と、世の働くパパの心の傷つけても、それを押し通そうとするくらい乙女の洗濯問題は重要な事なのだ。
まぁ、私の場合、『家族だったらどうでも良いよ』って言っていたかな。さすがに奏(本物)が尻もちついて犬の糞つけたズボンを、そのまま洗濯機に放り込もうとした時は、とび蹴り喰らわせたけど…
そして、二つ目。ランドリールームまで行くことが面倒くさい。お風呂入った後にあんまり表出たくないし、何よりここ五階だから、冬の夜の寒さにプラスして冷えるのよね…。
そして、最後。むしろこれが、もっとも洗濯を敬遠していた理由だけど…。
シュークリームを食べ終え、テーブルの前から立ち上がり、自宅の扉の方に向かって歩き
カチャ…
ドアを少しだけ開けて、外を覗く。実を言うとランドリールームの様子はここから確認する事ができる。
「灯りはついているけど、人はいない…かな?うん。行くなら、今だ!」
部屋着の上にトレーナーを着て、下も防寒対策をしようとするが
「あっ、まだ荷物、全部届いていなかった…。はぁ…」
この極寒の中で下は短パンのままでランドリールームに向かう覚悟をする。
あと、もう一つは
「サラシは…良いか!面倒くさいし!」
と言って洗濯籠を持ち上げて、自宅のドアを開けた。
そう。三つ目の理由。それは言わずもがな。
もう一人の入居者との鉢合わせだ。
ヒュウゥゥゥ…
「うぅ…、寒い、寒いー。太腿がガンガン冷えていく」
ランドリールームまではそんなに距離は無いが、この寒さなので、とてつもなく遠く感じる。少なくとも短パンで向かう事をおススメする距離では無い。
「でも、もうちょっとよ。頑張れ、私。確か、ランドリールームにはエアコンがついている筈」
あと、少し。もう少し。よし、着いた。
ガチャ
「とうちゃー、えっ?」
「うわっ、マジか!?って、え?」
誰もいないと思っていたランドリールームの中には人がいた。
どうやら、自宅のドアからでは見えない位置にそいつはいた。
なぜ、『そいつ』なんて乱暴な言い方をしたかというと、私は彼を知っているからだ。
「なんで、奏がここに!?」
「なんで、響がここに!?」
そこには、なぜか上半身裸の響がそこにいた。
「ななな、何で響がここにいるの?というより、なんて格好をしている!?」
この状況に対して、色々つっこみたかったが、まずはなにより響のその姿だった。
なぜに、この男は上半身裸なのだ!?あっ、でも筋トレうんぬんって、言っていたから意外と良い体…じゃ、なくて!
「いやん、エッチ。じゃなくて!奏こそなんでこんな所にいるんだよ!それにお前もその格好。もしかして、その、奏、下履いて無い?」
響の言葉を最初は理解できなかったが、今の自分の服装を見て、顔が熱くなる。
上着のトレーナーは大きめのサイズなので、部屋着の短パンを完全に隠しており、響の視点から見ると
上着だけ着て、下は全く服を着ていないように見えるのだ。
「なっ、そんな訳ないだろ、バカッ!この下には短パン履いているし、上も服を二重にして防か―」
そこまで、言って思い出す。自分の姿でもう一つ重大な問題点があることを…
『私、サラシ巻いていない!!』
プルプルプル…
「あのー、奏さん?」
私は恥ずかしさで少し涙が出てきていたが
バッ
「うわーん、響の変態ー!!」
「えっ、何で!?止めて!そういう事、大声で言うの!!」
大慌てでランドリールームから逃げ出した。
バタンッ!!
「はぁはぁ…、もう!なんで、こんな所に響がいるのよ!」
ランドリールームから脱兎の如く逃げ出し、自宅の扉を乱暴に閉め、床に投げ捨てられたサラシをガッと掴み、上着を脱いで、大慌てでそれを体に巻き付けた。
「だいたい、この寮って私以外にはあと一人しかいないはずだよね!?なんで、響がここに…って、アレ?」
サラシを巻きながら、理解した。
私以外にこの寮の入居者はあと一人。
そして、ランドリールームには響がいた。
『響は、私と一緒の寮に住んでいるの?』
ッキュ…
サラシが巻き終る。胸の主張が小さくなり、『星空奏(偽)』が完成する。
しかし、鏡に映る自分の表情に思わず、ジト目でつっこみを入れる。
「…なんで、ちょっと嬉しそうな顔しているの?」
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