橙色の教室の中で…:3~彼女の場合~
「…痛ってぇー」
急な出来事で私と響は床に倒れてしまうが、響が庇ってくれたおかげで大きな怪我は無かった。
しかし、倒れる時に椅子に足をぶつけてしまい、それが地味に痛かった…
「いたたた…。ごめん!響!大丈夫か!?」
「えっ?まぁ、何とかな…。そっちこそ、怪我とか無いか?」
「う、うん。俺の方も特に変なところは(足が痛いくらいで…)」
「っ!?」
その時、気づいてしまった。
私の体にある変化が起きていることを。
『あぁぁぁぁぁ、私のアホー!完全に気が抜けていて、すっかり忘れていた…』
自分の危機感の無さに少しだけ涙が出てきた。
そう。私の体のある変化とは、この学校で男の子として、学園生活を過ごす為に胸に巻いていたあるものが、外れていたのだ。
それは胸に巻いた『サラシ』だ…
どうしよう…、何とかしてまたサラシを巻き直さないと、男装学園生活に修復困難なヒビが入る!
でも、どうすれば良いの!
そっーと、響の方を見ると彼は立ち上がろうとして、床に手をついていた。
「響!!」
私は大声を上げて、彼の行動を制止した。
「えっ!あっ、はい!?何ですか?」
響はえっ?どしたの、コイツ…みたいなリアクションをしていた。
そりゃ、そうだよね。急に大声だして、体にしがみつく転校生とかおかしなやつだもんね…。
それでも、立ち上がった瞬間、胸部が強調され、女の子だとバレてしまうのを防ぐ為、響の体にしがみつくことしかできなかった。
「ひ、ひびきぃ…」
「お、おぅ、どうした?」
自分でもびっくりするぐらい情けない声が出た。
それでも、それでも、彼に頼るしか無いのだ。
だって、今ここで響を含め、この学校の生徒に自分が『女の子』、いや、『奏』では無いと知られる訳にはいかない。
「あ、あのな。その、急なお願いだけど…」
「しばらく、目を瞑ってじっとしていてくれないか?」
私がこの学校で『奏』としてやるべきことを成すまでは…
「…はぁ!?お前、ほんとどうしたの?やっぱりどこか悪いの?」
当然の反応。むしろ怒らない響は良い人の部類だ。
でも、ここで簡単に折れる訳にはいかない…
「いや、どこも怪我とかはしてないけど…。ごめん。自分が無理を言っているのは、わかっている。でも、お願いだ。少しのあいだで…良いから」
響に懇願する私の声は震えていた。正直、少し泣きそうだ。
今日、出会ったばかりのとなりの席の男の子にしがみつく事も、自分のミスなのにこんな自分勝手なお願いをこの人にしてしまうことも、全てが恥ずかしくて仕方がなかった。
「いや、でもな…」
やっぱり駄目だよね…。
本当は響の答えをわかっていた。けれど、私は自分の我儘を通そうとしたのだ。
今日、初めて出会った響の優しさに、甘えようとしたのだ。
自己紹介の時も、みんなに尋問されている時も、そして、怪我をしそうになった時も身を挺して助けてくれた響は、間違いなく優しい人だ。
もしかしたら、響ならこんな無茶なお願いを聞いてくれるかも、なんて思ってしまって、頼ってしまったのだ。
誰の力も借りず、一人で頑張るって決めたのに。
だから、そんな響に甘えっぱなしの自分が凄く、嫌だった…
「やっぱり、ダメかな…。はは…、だよな。いくらなんでも、こんなお願い聞ける、訳、無いよな。ごめんな、響」
「…」
響に頼る事を諦めたはずだったが、どうしても声に落胆が混じってしまう。
どうしよう…。このまま立ち上がって胸は目立たないかな…。
『女の子じゃない』なんて、どんな言い訳をすれば信じて貰えるの?いっそ正直に話す?響は漫画の王子様みたいに黙っていてくれるの?
どうしよう…どうしよう…どうしよう
響にしがみつきながら不安で一杯になっていた。
いつ、彼が立ち上がるか、出来ていない覚悟をしていると
「はぁ」
と彼の溜息が聞こえ、
「ほら、これで良いか?」
と優しい声が聞こえた。
その言葉が最初信じられなくて、そっと顔を上げると
響は静かに目を瞑ってくれていた。
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