橙色の教室の中で…:3~彼の場合~
「えっ、えっ?いいのか、響。お前、床冷たく無いのか?」
「冷たいに決まっとるだろ!?」
「なら、何で?」
「はぁ…」
今日は俺、何回溜息ついた?幸せ逃げちゃうよ…。
どうやら、コイツは底無しの気遣いマンだから言ってやらんとわからんようだ。
「何で?って、お前が泣きそうなくらい、困っているからだよ。だったら、別に冷たい床に寝っころがるのを数分耐えるくらいなんてことないわ」
「…」
ふむ。奏は俺の優しさに感動しているようで、あまりの嬉しさに言葉も出ない様だな。
てか、コイツ自分で頼んでおきながら気にしすぎだろ。全くそんなんだと人生疲れるぞ…。どっかの先生を見習え。
「ほら、何の用事かわからんけど早くしてくれ。俺は今、上着が無いから防寒能力が低下しているのだ」
「えっ?あっ、あぁ。ごめん。ありがとう。すぐに終わらせるよ」
モニョン
「…っ!?」
ん、何だ今の?俺の腹部に何か柔らかい感触が…。あっ、わかったぞ。
「あれだな、奏も、その、結構、胸あるのな」
「えっ!?む、むねぇ!?」
「えっ、無い方が良いの?胸筋があるってことは奏が普段から筋力トレーニング頑張っている証拠だろ?」
「えっ?あっ!あぁ、胸筋の事!そうなんだよ。俺も、その、結構、運動できるからな!はは…」
うーん、顔がカッコいい上に運動まで得意とは。
天から一つしか頂かなかった俺とやはり基礎ステータスが異なるのかもしれん。
良いなぁ。奏も律先生も。
「んっ…!よっ…、んん」
…まだかな?奏は今、俺に跨っているのだと思うが、この子いったい何してんの?何かさっきから服が擦れる音もしとるんだが…
「…ん。よ…し」
少しだけ目を開けようかな…と思ってしまったが
『ごめんな、響…』
奏の泣きそうな声を思い出して、また、目を強く瞑った。
ダメだ、ダメだぞ、雨晴響。
男同士の約束を破る奴なんて、時代によっては切腹もの。
それに昔話の『鶴の恩返し』しかり『雪女』しかり約束を破る男は手痛い目にあっている。
己の欲望に打ち勝て!響!君にはそれができる!
「…」
あれ?奏。終わったのかな?そう言えばさっきから奏がモゾモゾしている感じも無くなっているし…うーん。
ヒヤッ…
そうこうしている間に、背中の保温能力も限界が来始めた。
いやだって、上着も無いしな…
「えーと、奏さん?そろそろ俺の背中が教室の冷たい床と同じ温度になりそうなんですが…いかがでしょうか?」
「えっ、あっ、ああ。ごめんな、響。今どくよ」
そう言って奏は、よっ…。と言って俺から降りたみたいだった。
疑問形なのは俺がまだ律儀に目を瞑っていたからだ。
「…響。もう良いよ。ありがとう」
「んぁ…」
瞼をゆっくりと開ける。
真っ暗な世界が明るくなっていき、少し目を逸らしてしまうが
「響」
少しずつ俺の眼のピントが世界に適応していく。
そして、目に映ったのは
ドキッ
『えっ…?』
その光景を見て、不覚にも俺はときめいた。
なぜなら、真っ暗なの世界から戻ってきた俺の目に入ってきた絵は
オレンジ色の光をその背に受けて輝く
俺の上着を持って、頬を赤らめる
女の子のような
奏の姿があったからだ。
「ありがとう…助かったよ…」
「ん、と、えっと、これありがとう」
そう言って上着を返す奏。
俺はそれを受け取って
「えっ?あぁ、どういたしまして…」
と間抜けな返事しかできなかった。
「…」
「…」
待て待て、何だこの沈黙は!?
いや、確かに俺はときめきましたよ!ときめいてしまったとも!だって、しょうがないじゃん!
なんかよくわかんないけど、奏がすげー可愛く見えたんだもの!
ジロジロと奏を観察する。
「な、なんだよ…?気持ち悪いな…」
言葉ではそういう奏も俺の勘違いかな?嫌そうな顔はしていなかった。
むしろ、なしてコイツは恥ずかしそうなの?
しかし、可愛い顔しているとはいえ、うーん、コイツ、男だよな?なら、あのときめきはなんだったんだ?
てか、奏もさっきから何で顔赤いの?もしかして、風邪?
自分の不思議な感情を整理するため、うーんと唸り、首を上げ、視線を遠くに向けるが
「あっ」
窓から見える外の景色を見て、やるべきことの優先順位が切り替わった。
「やべっ!雨、降りそう」
「えっ?嘘、うわっ、本当だ!」
さっきまでオレンジ色だった空に少しずつ、灰色の雲が混ざり始めていて、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。
せっかく律先生が早めに帰してくれたのに無駄にしちまったな…
奏はガバッと起き上がり、机の横にぶら下がっている鞄を取って、
「ごめん。そして、ありがとう。響!このお礼は今度するよ」
「えっ、あっ、おい!」
バタバタ…
奏は教室を出て、廊下を駆けていった。
「何だったんだ、アイツ?」
そして、あの時のあの感情は…
フワッ…
色々考えていた俺は突然してきた、優しい香りに気づく。
ん?何だこの香り…って、これか?
その匂いの元に目線を移すと、そこにはさっき奏に貸した上着があった。
…いやいや、それは無いだろ?アイツ寝ていただけだぜ?
きっと、さっきくっついていたせいでちょっと香りが残っているだけだろ。
と思い、バサッと豪快に上着を羽織る。
「オイ、マジかよ…」
その上着からは寝起きの奏から香っていた
陽の光の中にいるような妙に落ち着く香りがした…
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