橙色の教室の中で…:2~彼の場合~

「…痛ってぇー」


 急な出来事で受け身が上手く取れず、下敷きになって奏を庇う事しかできなかった。が、その代償は大きく、頭を床に思いっきりぶつけてしまう。

 今日の俺、痛い思いし過ぎじゃない?あっ、でもその大半は律様のせいか…


「いたたた…。ごめん!響!大丈夫か!?」


「えっ?まぁ、何とかな…。そっちこそ、怪我は無いか?」


「う、うん。俺の方も特に変なところは…、っ!?」


 その言葉を聞いて俺はほっ。として天井を眺める。

 いやー良かった。律先生に言われて、基礎体力アップの為に筋トレしていたことが功を奏したな。良かったな、奏くん!俺の胸筋のおかげで君の綺麗な顔に傷一つ無かったぞ!


 しかし、背中が冷たい教室の床でせいでひんやりしてきたので、両手を床について体を起こそうしたが、


「響!!」


「えっ!あっ、はい!?何ですか?」


 奏が急に大きい声を出すので思わず敬語で答えてしまった。

 ビビったぁ。いきなり叫ぶとかどしたの、この子?


 奏を見ると俺の体にしっかりしがみついて、顔を隠してプルプルしていた。

 いや、マジでどうしちゃったの、この子?何か耳まで赤いけど?


「ひ、ひびきぃ…」


「お、おぅ、どうした?」


 奏の声はなぜか弱々しく、むしろ泣いているのでは?と思うほどだった。


「あ、あのな。その、急なお願いだけど…」



「しばらく、目を瞑ってじっとしていてくれないか?」



「…はぁ!?お前、ほんとどうしたの?やっぱりどこか悪いの?」


 あまりにも意味がわからない奏の言葉に流石の俺も疑問を投げた。


「いや、どこも怪我とかはしてないけど…。ごめん。自分が無理を言っているのは、わかっている。でも、お願いだ。少しのあいだで…良いから」


「いや、でもな…」


 そんなに懇願されても、背中冷たいし、頭のたんこぶヒリヒリするし、何よりこんなばっちい床から早く起き上がりたい。それにもう少しで外、雨も降るし…。

 それでも、奏はそこから動く気配が全くなかった。


「やっぱり、ダメかな…。はは…、だよな。いくらなんでも、こんなお願い聞ける、訳、無いよな。ごめんな、響」


「…」


 本来だったらこんなお願い、聞く義理なんて何も無い。

 急にきた転校生。俺はコイツの事を何も知らないのだ。

 だから、バカ言うな。と一言告げて起き上がることなんて、簡単だった。


 けれど、今にも泣きそうな奏が、あまりにも小さく見えて、少し可哀想になってしまい

 

「はぁ…」


「ほら、これで良いか?」


 俺はそっと目を瞑った。

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