その秘密が知られた時、僕は世界とサヨナラする

 あー、まず言っておくが俺は男の娘おとこのこになるような趣味は無い。


 俺の趣味は『自分の歌った曲を動画サイトに投稿して、みんなに見てもらう』ことだ。


 そして、その時の声は当然、先程の『高音』。

 この趣味は律先生ともう一人の親友しか知らない。


 で、本題だ。なぜ、俺は女装しているのか?


 理由は話せば長くなるが、一言で言うと、『俺が歌っていると言うことをみんなに知られたく無い』ため。


 俺は『自分の事を知って欲しい』という願望と『誰にも正体がばれたく無い』という願望が喧嘩しているという稀有な人間なのだ。


 しかし、ネットの検索能力は恐ろしいもので、いくら隠そうとしても、裏声のとか、まだ変声期前のとか自分の横を『身バレ』という弾丸がガンガン擦り抜けていくのに、俺は耐えられなくなっていた。

 耐えられなくなった、俺は苦肉の策で律先生と親友に


「身バレ防止の為、響!女装します!!」


 と吠えた。

 それを聞いた二人は大爆笑したあと、嬉々として、俺の大変身を実行した。


 要らない体毛は全て剃られ、カツラを被り、顔に化粧をし、そして、凛とした女性をイメージしたポーズをとって、親友がその姿を撮影。

 そして、画像を少し編集するとそこには長身の美女が爆誕した。


 あまりの美しさに俺自身、両手で口を押さえ、


「嘘、俺の姿、美しすぎ…」


 と感激したくらいだ。


 この女装写真をアップしたことによって、『Rain Wraith』のボーカル『halu』は『男性』という線は消え、安心して趣味に打ち込めると思った。


 が、色々と弊害が起き始めた。

 今、こうして律様に弱みを握られているのも、その内一つだった。


 …俺、本当に努力が裏目にでるよな。




「いや、お前なぁ、これは恥じるべきものじゃ無くて、誇るべきものだぞ?そこら辺の女子高生より綺麗だよ?お前」


 俺は律先生に猫背強制治療ベルトで縛りあげられ、芋虫の様な姿にされる。

 先生は身動きの取れなくなった俺の上にどっかりと座って、ニヤニヤとしていた。

 律先生のお尻の感触に集中したかったが、今はそれどころでは無い。


「いや、望んでやっていることならまだしも、俺はそんな写真を撮ること自体が恥ずかしいんだよ!」


 そして、先生!あんたは全国の素敵女子高生を敵に回したぞ!

 もっとも、律先生に勝てる女子高生など色んな意味でいないと思うがな!


「だいたい、俺が希望したのは宣材用写真一枚だけだ!どうして、そんな際どいポーズの写真があるんだよ!」


 そうなのだ。彼女が持っているのは動画投稿サイトのアイコン用として使用している写真ではなく、何故か黒い喪服をきて、肩を出して、頰を赤らめる

 …女装した俺だった。


 ちなみにテーマは『薄幸の未亡人』らしい。


 なんだ!?このマニアックなテーマ!絶対にアイツの趣味だろ!

 てか、何で俺も撮られている時に疑問に思わなかった!?


「まだまだあるぞ。お前のエロポーズ写真。おっ、これなんかやばいな。なになに?テーマは、背の高い女の子が、ぶかぶかワイシャツを着たら…」


「うわー、消せ!消して!というか、もういっそ俺を消してー!」


 俺の悲鳴は防音室中に響いた。

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