僕のコンプレックスは止まってくれない……

『いい天気だなー』


 朝のホームルームを聞き流す俺は窓の外をずっと眺めていた。

 空は憎らしいほどの晴天。

 こんな日にこれから授業を受ける俺はバカなんじゃないか?と思うほどだった。


『あー、こんな日は自転車漕いででも良いから、街はずれの日帰り温泉にでも…』


「おい!雨晴あまはれ!聞いているのか!」


「えっ、あ、はい」


 急に担任に呼ばれて、空想の世界から戻される。


 『ちっ、もう少しで温泉の扉が開けそうだったのに……』


 と謎の恨みを担任にぶつける。


「ったく、その調子だと俺の話ほとんど聞いていなかっただろ?お前」


「あっ、すいません」


 とりあえず、詫びを入れる俺を見て、クラスの皆からクスクスと小さな笑い声が聞こえる。

 いやだって、全く聞いていなかったもん。正直に言うしかなくね?


「はぁ。まぁ、いい。雨晴、お前、今から職員室に言って、転校生迎えに行って来い」


「えっ、なんで俺なんすか?」


「お前、本当に全部聞いていなかったのな……。お前の横の席、空いているだろ」


 と言われて視線を横に向ける。

 うん。見事なくらい誰もいない。

 あー、なるほど、つまりこれは…


「俺の隣の席が空いているから、横に座っている俺が迎えに行け。とそういう事ですね」


「うむ。やっと理解したか、ということで頼む。俺は昨日、コタツでソシャゲしていたら、そのまま寝落ちして、腰を痛めて、動けないからな」


 と爽やかにサムズアップする担任を見た、俺は非常に良い笑顔で


「ええ、任せて下さい」

『腰爆発しろ、このク○野郎』


 と答え、心の中で中指を立てた。



 ※



「あー、めんどくせえ……」


 おっと、心の声がそのまま出てしまった。いかん、いかんぞ。『雨晴響あまはれひびき』。

 ただでさえ、俺はあるコンプレックスのせいで、皆に悪い印象を与えているのだ。

 ここはグッと大人になって、担任のいう事をきちんと聞く良い子にならねば


 ドンッ


「痛ッ!」

「おい、大丈夫か?」


 ぼーっと歩いていたら、曲がり角から飛び出してきた男子生徒と衝突してしまう。

 俺の方は対して痛くもなかったので、


「悪い。大丈夫?」


 と言ってそいつに近づこうとするが、そいつはどうやら結構痛かったらしく、俺の方を睨み、


「ってえな、てめえ!どこ見て歩い……」


 と言いかけて、途中で止めてしまう。

 その反応を見て、俺は


『はぁ、またこれかよ……』


 と思ってしまう。


「おい、こいつ。例の亡……」

「わかっている。ちっ、悪かったな」


 と全く心の籠っていない謝罪をして、そいつらは俺の横を通り過ぎていった。


「クソッ、背がでかいだけの『亡霊ぼうれい』が」


「おい、止めろ。聞こえるぞ」


 あー、陰口言うならせめて本人が見えなくなってからにしろよ……。胸糞悪い。

 しかし、言われ慣れた事にいちいち腹を立てて追いかけるのも面倒だったので、そのまま職員室に向かう事にした。



 階段を下りながら、踊り場の壁の立鏡に映る自分を見る。

 前髪は長く、眉にかかっており、目元が少し隠れて自信が無さそうに見える。

 更に猫背の姿勢がより暗い印象を与え、その姿はさっきの男が言っていた『亡霊』そのものだ。


 しかし、あいつが怯えたのは恐らくこの『亡霊』のような姿などでは無く、


「はぁ……。普通、背が高い男子ってモテるものじゃねーの?」


 今も成長を続ける俺のこの身長だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る