となりの転校生（♂だよな…）がカッコ可愛くて、困っています…

歌が響いた……

　その日は最悪な日だった。

「……」

　私は真っ暗な部屋の中で、布団の中に潜って、スマートフォンを弄っていた。

　見ていたものは動画投稿サイト。

　小さな四角いアイコンの中には楽しそうな女の子二人と男の子が楽器を持って映っていた。

　それは、私たちのバンドの動画だった。

　三人で沢山、演奏した。

　毎日、毎日、毎日、音楽の事ばっかり考えてきた。

　最初にあげた動画は何か月経っても、再生回数一桁のままだった。

　それでも、私たちは無我夢中で演奏して、出来が良ければどんどん投稿して、

　いつしか、沢山の人たちに喜ばれるようになっていた。

　私達三人は約束した。

　『いつか、100万回再生されて、皆に見て貰えるような曲を作ろうね』と

　「ごめんね……、みんな」

　虚ろな目でアップした動画を無言で削除していく。

　小さなアイコンはどんどん灰色になっていく。

　その度に私の心からも色が消えていくようだった。

　そして、最後に残った動画を削除しようとした時、指が止まる。

　私達、三人が最初に作った動画。

　何回も演奏しなおして、

　何時間もかけて編集して、

　やっと思いで投稿した初めての動画。

　一週間経って、ワクワクしながらサイトを確認したら、

『再生回数：3回』

「ふふっ……」

　思い出して、つい笑ってしまう。

　そう言えば、あの時も三人笑っていたっけ。

　でもね……

「もう、夢を見るのは終わり……」

　ポチッ……

　そう呟いて、

　私は最後の動画を削除した。

　※

「……ん、あれっ？わたし」

　どうやら、あのまま寝てしまったらしい。

　髪は寝癖でボサボサだが、起き上がってそれを直すことも、もう面倒臭かった。

　ただ、眠りたかった。

　もうずっと起きる事が無いように……

　ピコン

　スマホから電子音が聞こえ、それと共に画面が明るくなる。その光を見て、眠気はどこかにとんでいってしまった。

「ん……、何？」

　イライラしながら画面を見ると、さっきの動画投稿サイトから

『あなたにおススメの動画あります』

　とお知らせがきていた。

　こんな死にたいような気分の中で一体何を見ればいいのだと、スマホにすら空気を読んで貰えないことに自嘲してしまう。

　虚ろな目のまま、勧められた動画を開くと

「タイトルは『RAIN（レイン）』。知らないな、こんな曲……。だれが歌っているの？」

　枕元に転がっているイヤホンを掴み、耳に着け、曲を再生する。

　窓の外の雨音がうるさかったので、少しだけ音量あげると

「……えっ？」

　その曲は今の私と同じ状況を唄っているようだった。

　その曲に出てくる男の子はずっと女の子と一緒に夢を追っていた。

　けれど、途中で女の子が彼の前から消えてしまい、二人で叶えようとしていた夢はそこで途絶えてしまう。

　追い打ちをかけるように、冷たい、身も凍るような雨が彼に降り注いでくる。

　それでも、彼は立ち上がって、雨の中を歩き続けた。

　たった一人でも自分の『夢』を叶える為に―

　ポロッ

　私の頬に温かい雫が流れる。

　その量は徐々に増えていく。

　私はこの曲を聞いて、泣いていた。

　そして、最後のフレーズが流れる。

　―僕は雨雲の先の、星を目指す

　曲が終わる。イヤホン越しに窓を叩く雨音が聞こえる。

　けれど、それよりも大きかった音は

「うっ、うっ、ひっく、うっ……」

　私の泣き声だった。

　忘れようとした筈だった。

　捨てようとした筈だった。

　諦めようと……した筈だった。

　けれど、いくら思い出の曲を消しても、

　どれだけ、布団に籠って目を瞑ろうとしても、

　それを絶対に捨てる事なんて、できる訳無かったのだ。

　だってもう『歌』は私の一部なのだから……

「うっ、うっ、うわぁぁぁぁん。あぁぁぁぁぁ。うわぁぁぁぁ」

　その夜、私は声が枯れるまで泣いた。

　外の雨が止んで、空が明るくなっても、私の涙は止まらなかった。

　その時、誓ったのだ。もうあの時の事で泣くのは

　この涙を最後にしよう。と―

　この日から私は『歌（うたう）』として

　泣くことを止めた。