そろそろサンタも働き方改革意識したい。
月川原虎雅
第1話 中年サンタと中年トナカイ
クリスマス。街はイルミネーションで輝き、幸せそうなカップルで溢れかえる。家では、チキンにピザにケーキ、豪華な晩餐に子供の目が輝く。
そして子供は決まってこう口にする。
「サンタさん来てくれるかな!?」
すると親は決まって、
「いい子にしてたらね。」と言う。
正直、特別いい子にしてなくても、サンタはやってくる。つまり、クリスマスの夜のサンタは大忙しなのである。
この話はそんな厳しいサンタ界を生きる、ある中年サンタの物語である。
俺は中年サンタの三田浩。
昨日は少々の残業をこなした後に、上司との飲み会。家に帰っても歳を取るにつれて怖さが増してきた嫁の機嫌をとってから床につく。さらに残念なことに歳のせいか、尿が近く、夜中に何度も目が覚めるのに加えて、朝5時に目が覚める。
疲れを感じるという状態は超えてしまったのかもしれない。清々しい朝だ。
クリスマスが終わった26日の朝。
俺が勤めるサンタクロース協会大阪北部支部事務所に勤めるサンタクロースとトナカイは皆疲れ果てた顔をしていた。プレゼントを一晩のうちに配るのは、大変な人手が必要になるため、当事務所に勤める多くのサンタは配達に回っていたのだ。
俺もその疲れ果てたうちの一人である。
サンタが家に配り始めるのはほとんどの子供が眠りについたであろう午前0時からである。
いくらサンタといえども人間である。眠たくないはずがない。ちなみに私はモンスターエナジーを飲んで眠気覚まし図った。準備段階での激務からの深夜の配達は猛烈な睡魔による注意力散漫との勝負である。間違って子供の手を踏んで、起こしてしまえば、サンタ人生は終焉を迎える。
別にサンタクロースの存在が知られることに問題がある訳ではない。サンタが来たことを夜のうちに知られるのが問題なのだ。そのため、全サンタは慎重にプレゼントを運ぶ。睡魔に加えて、これだけ神経をすり減らす一晩を終えたのだから、皆疲れた顔をするのは当たり前である。
しかし、配達を終えたサンタクロースと比べて、元気そうな顔をしているのは、上層部のサンタとトナカイ達だ。上層部のサンタはクリスマス当日は緊急事態でも起きない限り、本当に暇そうなので、疲れてなくて当たり前である。しかし、問題はトナカイだ。もちろんみなさんがイメージする通り、トナカイと一緒に配達に行くのだが、トナカイは恐らく疲れにくい体質なのだろう。一晩中動き回っても、そんなの関係なしといった感じだ。
「もう20年くらいやってんのに、まだしんどいんかよ。」と笑いながら言ってきたのは、俺がサンタになった時からの相棒のトナカイ、ジョージだった。
俺と同い年なので50歳なはずなのだが、まだまだ若々しい。トナカイに若々しいという表現が合っているのか分からないが、みなさんが想像する以上に人間みたいなトナカイなので、適切な表現だと思う。
トナカイは事務作業をしない代わりに、普段から重い荷物を運ぶためのトレーニングを積んでいるため、スポーツ選手のように年齢に合わない者が多い。(先ほどトナカイは疲れにくいと言ったが、トレーニングを普段からしているからであろう。)ジョージも昨日の夜までプレゼントを運んでいたはずだが、これからウエートトレーニングに向かうようだ。我々サンタクロースも25日中は配達を終えれば、休みなのだが、26日は昨日の配達状況の確認のための会議をするために皆出勤してくる。
この会議さえ終われば、1月7日までの長い正月休みが待っている。俺は家族と共に妻の実家に行く予定だ。ほとんどのサンタはこの正月休みを希望に日々の仕事をこなしている。
ちなみにトナカイはクリスマス終了から2月までは自主トレーニング期間となっており、事務所に併設されたトレーニング室やグラウンドに現れる者もいれば、故郷に帰って鍛錬を積む者もいる。
2月からは沖縄での春季キャンプ、8月の北海道での夏季キャンプという野球選手のような1年を過ごす。
こんなことを長々と話してきたが、俺がいちばんに言いたいのはこの業界も働き方改革を意識したいということである。サンタクロースは高齢化が進み、後継者不足が深刻である。経験の少ない20〜30代のサンタはあまり現場には送られず、クリスマス本番はオペレーションを担当することが多く、負担の大きい配達をするのは40〜70までのベテランサンタなのだ。トナカイもスポーツ選手ばりの厳しい1年を過ごし、サンタ、トナカイ共に休みは普通の会社員ほどしかない。もしかしたらそれ以下の休みかもしれない。それでいて、仕事の責任は大きい。
なんとかならねぇかなー?
そんなことを考えながら、事務所を後にした。
そろそろサンタも働き方改革意識したい。 月川原虎雅 @tora1116
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