桜の汐漬け。

 私は好きで好きでたまらない花が三種類ほどある。


桜 紫陽花 彼岸花


 私は暑いのも寒いのもダメで、春が一番好きだ。暖かくて、春の青空を彩る鮮やかたる桜吹雪を見ないと、春を終われない。 やりきれないのである。


 そんな私は先日、用があって、京都へ行ってきた。

そこで、桜の塩漬けというものを買ってみたのだ。


 紙のパッケージには桜が満開で、「汐さくら」と細く華奢な文字が物語っていた。 2袋程、購入してみた。

袋に顔を近づけてみると、ほのかに桜が香るのが良かった。


袋の中には春が詰まっていた。


それだけでも、私はいっとう嬉しく、天に上るような心地で、そのまま自宅へ帰ってきたのである。


 最初、桜の塩漬けのあまりの塩の多さに、身体を壊してしまうのではないかと、悶々と悶えながら、塩まみれの桜を一つまみ、湯にいれたのだが、とんでもなく、塩辛かった。


しょっぱい。とんでもないしょっぱい。という経験しかなかったわたしには。


それは、舌がしびれるほど、辛く。しょっぱかった。


匂いも、いけない。


桜のよい香りが塩で邪魔されて、塩分の多い梅に近いナニカみたいな香りで、鼻がひん曲がりそうというのは、この時はじめて経験したのである。

 後で、調べて分かったのだが、桜の塩漬けには「塩抜き」というのが必要らしかった。

水に適度に浸けておいて、網のボウルで桜を散らない程度に優しく、すすぐらしかった。


 私は寝る前につけておいたので、ある程度抜かれていて。丁寧にゆすぐと、あの、嫌な香りも消え失せて、鼻には春がひろがった。


白湯に浮かしてみると、しぼんでた桜が待ち構えたかのように、パァっと花開き、水面には春がただ、広がっていて、桜の儚さと、桜餅よりも、透明な香りがほのかに鼻をかすめ、花弁はひらりと一枚、浮かんでいる様は、どの宝石よりも、美しく、儚く、


 そして、特別なもののようであった。


味は白湯だが、ほんのりと香る桜は鼻も幸せになるし、見ているだけで、なにか見てしまって申し訳なくなるほど、鮮やかでうつくしい桃色が咲き誇っていた。


今日も。私の手の中には桜がひろがっている。


一口飲むと、一息。嗚呼。春

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