標本調査(サンプリング) 

「お助けください転生・転移者様!貴族や平民などの様々な階級から意見を聞き取りたいのですがどうしても偏りが生じてしまうのです!」


 どうやら国民の意見を公平に政治に取り入れたいようだが、どうやら平民の意見ばっかりになってしまうらしい。そりゃ平民のほうが数が多いから当然である。


 さすがに全国民の意見を聞き取るのはいくらチートスキル『テレパシー』を使っても骨が折れ……え?余裕?


 ……


 まあとりあえずここは現代知識に頼ってみよう。


 適当に市街の100人から意見を聞いて、その結果を国民の総意です。といえるだろうか、答えはNOである。市街いるのが平民がほとんどであり、その結果を貴族も含めた調査結果ですと言ってしまったら貴族たちから不満が噴出するだろう。無論貴族しかいない舞踏会で調査してもしかりである。


 ではどうすればいいか、層別抽出法というものがある。


 例えば人口比で貴族が2%、平民が98%だとしよう。そうした場合、100人中2人は貴族、98人は平民から意見を募らなければならない。もっと詳細にデータを取りたいなら1000人や10000人からデータをとってもいい。


 ……とは言ってもサンプリングというのはなかなか難しいのである。


 1936年のアメリカ大統領選挙の例を見てみよう。選挙予測の草分け的存在であったリテラリー・ダイジェスト社が新参のギャラップ世論調査社に負けてしまったのである。リテラリー・ダイジェスト社は237万6532人のデータをもとにA.M.ラドンの勝利を予測したのに対し、ギャラップ社はたった3000のサンプルでF.ルーズベルトの勝利を予測したのだ。


 これにはリテラリー・ダイジェスト社の失敗がある。リテラリー・ダイジェスト社はハガキを送って調査したが、送られたのは自動車登録者リスト、電話加入記載者、雑誌購読者リストに載っていた人々である。これらの人々は当時経済的に余裕がある人であり、そうした人々はA.M.ラドンの支持者が多かった。


 対してギャラップ社は、階層に偏りがないように割当法というやり方で標本抽出を行ったため、少ない標本で選挙予測を的中させたのである。つまり標本の大きさではなくいかに偏りが少ない抽出ができるかというのが重要ということなのだ。


「ありがとうございます!さっそく現代知識を用いて冒険者ギルドが調査を行ってきます!」


 これにて一件落着、知っててよかった現代知


 ワー     ワー


 いや待ってほしい。なにやら騒がしい声がする。


「なんだこの冒険者優遇の政策はー!」

「吾輩はこんな政策認めんぞ!」


 ……ああやってしまった。ギャラップ社の失敗の再現である。

 1948年の大統領選挙でギャラップ社はデューイ候補の勝利を予測した。しかし勝利したのはトルーマンであった。この失敗の原因は割当法の限界によるものだった。


 割当法は客観的は抽出への配慮はされているが、誰を選ぶかは調査員の自由である。つまり調査員は自分に身近な人を対象に取ってしまうのだ。


 ギャラップ社の人間は高学歴の人間を、冒険者ギルドの人間は冒険者の平民やギルドを支援する貴族などとかである。そうすると調査結果に偏りが生じてしまう。


 つまり誰を対象とするかも無作為に選ばなければならなかったのだ。このようにサンプリングは難しいのである。


「ふむ……最初から『テレパシー』を使っておけばよかったのでは?」


 ……そうですね。


 居てよかったチート能力者。

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