あの人の痛み

自分ではないだれかの痛みに

涙したことはありますか


何度も 何度も

この腕に落ちた涙の粒

それが 何の役にもたたないことを知っていても

それならどうして

勝手にあふれては止まらないのでしょう


あなたの大きな傷口 添える手から

とめどなく溢れては地面に吸われる血

そんな姿でどこへ行くの

荒野に消えていくその姿に

まるであの血のように

私の目からは涙が止まらないの


この涙一粒一粒を包帯に変えて

あなたの傷を包んでくれればいいのに

そうすればこの水分だって無駄ではない


雨が降る

傷口を晒したような痛々しい荒野に

汚れた水が降る

そんなものであの人の血も私の涙も

洗い流すことはできないのに


天も私と同じ役立たずだ

神なんていないのだ

もしそうでないというのならば

あんなにやさしいあの人の傷は

もうとっくにふさがっているでしょう?


優しいふりなどしてくれなくていい

雨だろうが雪だろうが灰だろうが一緒だ

何が降りてこようがあの人の傷は癒せない


もうあとかたもなく

全てを消してしまってほしい

私も天も地も世界も


全てが消えることでのみ

あの人の痛みは消えるのだろうから

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