4-7  近い!

 浪江君、新たに、隣のモニターに、神社の奥から撮っている映像を映し出す。

 遠くに、葛西たちと思われる3人が、鳥居を潜り、こちらに向かって歩いてくる。

 この映像も、ある程度操作できるカメラで、かなりの望遠で撮っている感じ。

 この角度だと、上の方が黒くなっているのは、枝が影になっているんだろう。


 で、後の連中はどうするのかと思ったら、3台の車は、そのまま出て行ってしまった。

 3台は、まっすぐに進んで…、うちの敷地の方に左折しないで、だから、カメラでは追えない方向に…そのまま、走り去っていった。


 萱津は、葛西たちを残したまま、どこかへ行ってしまった、ということになる。

 …どういうことだ?


 そして、葛西たち3人はというと、神社に向かう道を途中で左に曲がり…、だから、モニターに映る映像だと、右手の方に折れて、平池の畔を、龍神様…龍神がまつられている小さな社のことだけれど…その方向に進む。


 龍神様の脇まで来ると、道から外れてこちら側の草むらに入り込み、龍神社の裏手に回り込む。

 そこは、外…道路のほうから見ると、社の陰になって見えにくいんだけれど、この角度から写していると、バッチリと映っている。


 3人は、そのまま進み、龍神様の脇、平池神社とうちの敷地との境界になっている柵に近づき、高さは150センチほどあるんだけれど、なんということもなく、あっという間に乗り越えた。

 見かけ以上に軽やかな動き。


 そう、ヤツら、うちに侵入したと言うこと。

 ヤツら、車でうちの敷地を1周半しただけで、その後は、迷いもなくこの行動。

 このように侵入したということは、前もって、作戦はできていた、と考えざるを得ない。


 浪江君の隣に座っている美枝ちゃんの携帯が鳴った。

 北斗君からだ。


「すぐに対応するよ」

 と、北斗君が美枝ちゃんに話したのがスマホから聞こえた。


「いや、まだ、様子見だけでいいよ。

 萱津たちは、まだ来ないようだから…。

 逆に、今は、葛西たちには気づかれないように、そっとね」

 と、美枝ちゃん、答えた。

 こっちがどうしてもやっつけたい相手は、萱津。


 北斗君は、島山さんと一緒に、外に行ったまま。

 浪江君がここで見ているいくつかの映像、その主なものは、タブレットを使って、北斗君たちも見ている。


 昼は、交代で食べた。


 今、みんながここでやることとして、主なことはモニターでの監視。

 6人もいるので、3人ずつ二つに分けて、交代で食堂に行くことにした。

 食堂では、吉野さんが短時間で食事を出してくれ、また、食後には、コーヒーも淹れてくれる。


 ちょっとした休憩も取れるので、うれしいひととき。

 まず、さゆりさんとサッちゃん、それと浪江君が食べに行った。


 ゆっくりでいいよ、と、あやかさんが言ってはいたけれど、3人は30分ほどで戻ってきた。

 で、交代して、おれは、あやかさんと美枝ちゃんと一緒に食べに行った。


 食後、コーヒーを飲み出したとき、

「萱津たちが来たときに、こっちの方も動き出すんだろうね…」

 と、あやかさん。


 こっちとは、葛西たちのことだ。


 さっき、敷地に入り込んだ葛西たち3人は、山の西側…家とは反対側…をぐるっと北に向かって進み、前に侵入してきた連中が通った道に出た。

 さらに、そのときに、落とし穴を掘ったりしたところから少しこっちに来て、そこで、道から外れて藪に入り込み、カメラから消えてしまった。


 どこかに潜み、じっと時を待つ、といった感じ。

 でも、こっちとしては、どこにいるかわからないので、ちょっといやな感じ…。


 とはいえ、前の侵入者に懲りて、その付近にもカメラを何台か設置してあるらしいので…この付近のカメラについては、おれはよく知らない…、今は、はっきりした場所まではつかめないけれど、動き始めれば、たぶん、大体のことは探知できるはずだと浪江君は言うんだけれど…、でもな…、不安はないわけではない。


 そんな流れで、北斗君と島山さんも交互で戻り、食事をとった。

 葛西たちが潜んだあたりを、遠くから、動きがないかを見ているんだとか。

 どんな動きをするかわからないから…。


 今回、おれは、山には入っていかないで、基本的には、このうちの周辺で戦うつもり。

 あやかさんとさゆりさん、そしておれは、このうちの近く…、あるいは中でヤツらを迎え撃つ予定。

 当然のように、サッちゃんも、おれたちと一緒に行動することになっている。


 いつまでも動きがなく、ヤツら、このまま、夜まで行動を起こさないんじゃないかな、と思い始めた4時頃、1台の車が、平池神社の前に止まった。

 さっきの3台のうちの1台。


 後ろの、左右のドアーが同時に開き、それぞれがっちり系の男が降りてきた。

 葛西と、同じような出で立ちで、降りると、やはり小さなリュックを背負った。


 こいつら二人は、空港で見たヤツらだ。

 あの、萱津と一緒に降りてきた二人。

 顔は知っているけれど、名前はわからないから、順番で男3と男4となる。


 二人が降りると、車はすぐに出て行った。

 あれっ?萱津は?

 萱津はどうしたんだろう?


 男3と男4は,出て行く車を振り返ることもなく歩き出し、やはり鳥居を潜り、神社の中へ。

 でも、すぐに右の草むらに入り込む。

 だから、モニターでは、左の方に曲がった。


 でも、このカメラの位置からだと、あっという間に、平池神社のおおきな社殿の陰になって、隠れてしまった。

 浪江君、すぐに、カメラを切り替える。

 今度は、住宅の方から。


 二人の男は、簡単に柵を乗り越えて侵入し、住宅の裏、ちょっと湿地になっているところの脇を通り、東の方、だから、別邸の脇にある駐車場の方に進む。

 いよいよ、こいつらも参加して…。

 でも、肝心の萱津は?


 そのとき、サワッとした感覚、さっきよりも強い感覚が体を走った。


「萱津だ!

 近い!

 浪江君、家の裏の方を確認して」

 と言い残し、あやかさんが、走り出した。

 左手には、馴染みの小刀、でも、今や、新たに誕生した妖刀『龍の目』を持って、


 さゆりさんも、あやかさんと一緒に作業室を飛び出していった。

 今、二人が行くところはわかっている。

 まず、客間だ。


 でも、この萱津の気配、明らかに、家の裏の方から。

 浪江君、カメラを切り替えて探り始める。

 いくつかセンサーがあるはずだけれど、どういうわけか、鳴らなかった。

 切り替えた画面も、うまく映っていないようだ。


「おれは、裏を見るね」

 と、大声で客間の方に怒鳴って…多分、あやかさんに聞こえたとは思うんだけれど…、作業室の西側にある廊下のようなスペースに出た。

 このスペースの北側には裏に通じるドアーがある。


 でも、このドアーの向こうは、まだ家の中。

 1段低くなって、畳2畳ほどの三和土たたきの土間になっている。

 外に出るためのドアーは、その土間の向こうにある。


 裸足のまま土間に出て、さて、このドアー、すぐに開けていいのか、と、迷い、浪江君にモニターの状態を聞こうと思ったら、

「わたしが、様子を見るよ」

 と、後ろから声がした。


 驚いて振り向くと、サッちゃんが、土間に降りていた。

 もちろん、裸足のまま、左手には短刀を持って。

 おれと一緒に、でも、音もなく走ってきたようだ。


 ということは、サッちゃんも、おれと同じように、あるいはおれ以上に、さっきの、アイツのエネルギーを感じ取ったということだ。

 瞳の色が紅、サッちゃん、『神宿る目』になっている。

 で、おれも、多分、目の色、変わっている。


「様子見って…どうやって?」

 と、おれ、様子を見る方法、見当もつかなかったので。


「そこに潜り込んで」

 と、サッちゃん、右下を指さした。


 今、土間に立っているんだけれど…北向きで…、正面には外に出るドアー。

 でも、薄暗い中、よく見ると、右側下の方に、壁に同化したような戸があった。

 土間の床から1メートル四方の引き戸になっているが、物入れのような感じ。

 いわれて、その戸を、右にスライド。


 あらあらあら…、実にそのまま、ほぼ1メートル四方の断面で、家の北側、床は土間の高さで、ダクトのような空間になっているではないの。

 で、見る限り、その床は、コンクリートではなく、土を叩いた土間がずっと続いているようだ。


 このダクトみたいな空間の上は、作業室では、モニターが埋まっている壁の裏になるので…、そうか、配線など、そのための空間だ。

 そして、その先にある、主に吉野さんが入る風呂場では、出窓の下になり、台所の裏、静川さんの事務室では…、うん?そこはどうなっているのか、おれにはわからない。


「どうなってるんだろう…」

 と、おれがつぶやくと、


「突き当たり…東側に、出口があるんだよ。

 ただ、途中で、北側に出られるところが2カ所あるから…」

 と、サッちゃん。


 おれよりも、この家に詳しい。

 どうやら、サッちゃん、ここは、何回も通ったことがある場所のようだ。


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