3-11 必死さ
「アイツの…核となる…中心は…、う~ん…。
あの時は…、頭の…ところにあったから…」
かをる子さん、誰かに話すというわけではなく、独り言のようなんだけれど…、でも、みんなに聞こえるように、ぽつりぽつりと話し出した。
「頭の上から…ズブリなら…」
と、物騒なことを呟いてから、あやかさんに向かって。
「ねえ、あやか。
アイツを『霜降らし』で刺せば、なんとか退治できるかもしれないよ…」
と、言った。
当然、かをる子さんの独り言のようなところも聞いていたあやかさん。
「とはいってもね…」
と、ちょっと顔をしかめて。
「いくらなんでも、『霜降らし』で、萱津の頭をズブリと刺すのは、いやだな…」
と、言った。
「人間の萱津は、もう、生きていないんだろうけれどね…」
と、かをる子さん。
「まあ、それはそうなんでしょうけれどね…。
実際には死んでいても、刺せば、わたしが殺したことになっちゃうので、それも嫌だし…。
それに、頭となると、余計にね…。
ねえ、かをる子さん、アイツを、萱津の体から追い出す方法はないのかしら?
そうしたら、妖魔の時みたいな感じで、刺すことができそうな気もするんだけれど…」
「う~ん…、そだねえ…。
なにか、いい方法がないかな…。
電気ショックだと…、う~ん…」
と、かをる子さんも、考え込んだ。
そんなとき、
「ねえ、リュウ兄が、アイツを引き抜いちゃえばいいんじゃない?
アイツは、そんなに重くもなさそうな感じだし…」
と、とんでもない発言が、おれの斜め前に座るサッちゃんから出てきた。
「えっ?
サッちゃん…。
なんて恐ろしいこと言い出すの?」
と、おれ、大人げなく、ちょっと非難気味にサッちゃんに言った。
でも、かをる子さんが、…この、妙に長いソファーで、おれの隣のあやかさんの、その向こう隣に座っているんだけれど、大きく頷いて。
「なるほどね…。
それは、やってみる価値はあるかもしれないよ。
ダメもとでね。
確かに、アイツ、重さという捉え方だと、そんなに重くないから…」
と、賛同。
そして、かをる子さん、ちょっと考えて、
「そうだね…、いけるかもしれないね…。
となるとだねぇ、龍平が、引き寄せるときにね、アイツのイメージをどのように持てばいいのかというと…」
と、おれが持つべきアイツのイメージを説明し始めた。
話が、とんでもない方向に流れていく。
かをる子さん、萱津の中でのアイツの状態は、しっかりと把握できているようで、その話によると、萱津の体、その頭部にアイツの中心があって、あとは全身に薄く広がって体を支配しているらしい。
だから、頭部にある、核となるエネルギー体の塊を引き出してしまえば、それにすべてのエネルギーがくっ付いて出てくるはずだと、かをる子さんは、その塊の具体的なイメージを、丁寧に説明してくれた。
でも、その話を聞いていると、引き寄せたとき、そのエネルギー体の塊であるアイツではなくて…、いや、アイツが一緒でも同じことなんだけれど…、間違って萱津の脳みそでも引き寄せてしまったら、おれ、どうしたらいいんだろうと、だんだん、怖くなってきた。
「どうも…、エネルギー体って、見たことないし…。
それに頭の中にあるんじゃね…。
どうも、それだけを、うまく、引き寄せられそうにない感じだな…」
と、ブツブツとおれが言うと、
「やってみなけりゃわからないじゃないの…。
仮に、間違って、脳みそも一緒に引き寄せちゃったってさ、それはそれでしょうがないんじゃないの?」
と、おれの考えたことが、おそらくわかったんだろう、かをる子さんが、とんでもないこと言ってきた。
かをる子さん、さらに付け足して、
「どうせ、もともと萱津は死んでいるんだし…。
それに、龍平が脳みそ持っているの見つかっても、今の科学じゃ、萱津を殺したという犯罪の立証はできないだろうから…」
いや、見つかるとか見つからないとか、そういう問題じゃなくてさ…。
かをる子さんに言われると、自分の空想だけで恐れていたときよりも、その状態が、より鮮明に、まざまざと思い浮かんできた。
そう、おれの右手に…。
感触まであるようで…。
あ~あ…,気持ち悪い…。
頭を振って、イメージを消して、かをる子さんに一言文句を言う。
「もう、なにを言ってるんですか、かをる子さんは…。
かをる子さんだって、アイツを飲み込むのが嫌なんでしょう?
それと同じように、おれだって、嫌なことはあるんですからね。
おれにできる範囲のことで、言ってくださいよ」
と、かをる子さんに向かってそんなことを言ってると、右斜め向かえに座っているサッちゃんが、グッと手を伸ばして、おれの膝をチョンチョンと叩いてきた。
おれがそっちを向くと、整った顔のサッちゃんが、くりっとした大きな目で…すごく澄んでいる目なんだけれど…しっかりとおれを見ていて、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ…、リュウ兄…。
男は、こういう戦いのときは、本気でやんなくっちゃダメなんだよ」
と、言ってきた。
何だか、弟を諭すような感じで。
「アイツからあやか姉を守るんでしょう?
もっと真剣に、かをる子姉の言うことを聞いてさ、その、アイツのエネルギー体の塊のイメージをしっかり作りなよ。
リュウ兄は、必死さが足りないと思うよ」
と、言われ、さらに、呟くように。
「どうも、ゆるいところあるみたいだな…」
と、ダメ押しを言われてしまった。
おれは、こんな小さな子に…、サッちゃん、中学1年だから、それほど小さいわけではないけれど…、でも、おれよりかなり幼いはずの子に、こんな、とんでもないこと言われてしまって、ギョッとした。
おれ、本気でやってはいるつもりなんだけれど…。
でも、隣のあやかさんは、いや、あやかさんばかりか、正面に座るさゆりさんや美枝ちゃんまで、「プッ」と吹き出し、笑っている。
いやいや、笑っているのは女性ばかりでない。
有田さんや北斗君、浪江君まで、ニカニカ笑っている。
どちらかというと、かをる子さんのほうが、初め、ちょっとキョトンとした、驚いたような顔をしていた。
でも、すぐに、笑いに転じ、今では、一番楽しそうに笑っている。
みんなの笑い、明らかに、そうだ、そうだ、その通りだよ、とか、よく言ってくれたよね、とか言っている感じだ。
チッ!
勝手に笑ってろ、ってんだ。
おれだって、あやかさんを、なんとしてでも守るという思いは、あるんだぞ。
でも…、そうなのかな…。
必死さか…。
う~ん…。
おれ、やっぱり、必死さが足りないんだろうか…?
仮に、不気味な何かが一緒にくっ付いて来てしまうとしてもだ、とにかく、アイツのエネルギー体の塊を、引き寄せる努力は、してみなくてはならないのかもしれないな…。
必死さか…。
そうだよ、あやかさんを取り戻すときのようにだよ。
そう言えば、サッちゃん、あの時のおれを見ていたからな…。
今のおれ、すごくぬるく見えるのかもしれない。
「わかった…。
もっと必死になってみるよ」
と、おれ、サッちゃんに言うと、それまで、じっとおれを見ていたサッちゃん、ゆっくりと頷いて、ニコッと笑った。
それで、おれ、
「アイツの核の部分のイメージ、何回か、繰り返して話してもらえますか?」
と、かをる子さんに聞いた。
1回や2回、聞いただけでは、しっかりとしたエネルギー体のイメージが作れない気がしたからだ。
かをる子さん、
「龍平も、やっと、やる気が出てきたね…」
と言いながら、ニコッと笑って頷いた。
明日が早いと言うことで、とりあえず、ここで話を切り上げて、解散となった。
でも、おれとあやかさんは、しばらくここに残って、イメージ作りのために、かをる子さんの話を聞いていた。
そしてサッちゃんも残って、一緒に話を聞いた。
有田さんとさゆりさんは、お風呂の支度などをするために、先に部屋に戻った。
でも、そのとき、サッちゃん、あの妖刀と同じような小刀を持っている関係で、いざとなったときには参戦すると言い張るので、有田さん、黙って頷き、さゆりさんを引っ張るようにして2階に上がっていった。
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ここで、第3章を終わりにします。
第4章 戦いになっちゃった を、お楽しみに。
今度こそ、本当に、最終章となるんだと思います。
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