3-10  連絡

 あやかさんから、みんなの明日の都合を聞かれた美枝ちゃん、キッとした目であやかさんを見て…。


「お嬢様、これは、緊急事態と判断します。

 みんなには、こちらを優先してもらいます」

 と、ちょっと強めに言った。


 このとき、美枝ちゃん、キリッとして…、すると、一瞬だったけれど、可愛い女の子というよりは、今まで思いもしなかったスポーティーな美人という感じで…。

 おれの正面やや左にいるので、おれ、そこに、思いもしなかった美人が存在していると言う事実に、ちょっと、ドキッとした。


 でも、美枝ちゃん、すぐに、いつもの可愛い女の子に戻って。

「明日、朝、9時に集合でいいですね。

 ここにいる人の他は、シマさんとデンさん。

 呼ぶのは、その二人でいいですよね?」

 と、集合時間とこれから声を掛ける人を、あやかさんに確認した。


「ええ、そうね…、確か、木戸さんは、どこかに出かけているのよね?」

 と、あやかさん、右端のソファーに一人座っている有田さんに聞いた。


「ええ、今はどこにいるのか…。

 ちょっと、連絡してみますか?」


「いえ、止めておきましょう。

 ここにいる人たちと、シマさんとデンさん…、それで充分だと思うから。

 木戸さんには、あとで、報告だけでもしておいてくださいね」


 有田さんが了解すると、美枝ちゃん、

「それじゃ、連絡しますね」

 と、スマホを取り出して、横を向いたとき、


「あっ、ちょっと待って。

 念のため、先に、わたしが父と打ち合わせておくわ」

 と、あやかさんが、立ち上がって、部屋の隅のほうにある、別のソファーに移った。


 そうだよな。

 まず、お父さんの意向を聞くことから始め…、うん?いや、どうも、そんな、意向を聞くなんていうような雰囲気ではないな。

 そもそも、妖結晶を、こっちに移すことは、もう、決まっているんだから。


 で、打ち合わせって言うのは、移す時間や方法のことなんだろう。

 この辺…こういう場合の決定権とでも言うのだろうか、そういうのが、どうなっているのか、おれ、まだよくわかっていない感じだ。

 のどかな亭主と言われるゆえん…かな?


 あやかさんが、お父さんと話している間、みんな、ソファーに掛けたまま、黙ってコーヒーを飲んだりしている。

 でも、しっかりと聞き耳を立てて、あやかさんの話を聞いている。

 おれの、右前にいるサッちゃんまで…。


 あやかさん、まず、さっき、美枝ちゃんに話したことを、お父さんに伝えた。

 少し簡略にはなってはいるが、今の萱津の危険性は充分に伝わっている。


 普通の感覚だと、あの、地下の、厳重な金庫が簡単に破られるだなんて、納得しないかもしれないけれど、お父さん、かをる子さんと面識があり、彼女がどのような存在なのかを知っている。

 それに、妖魔が現れ、あやかさんが消えたときの映像なども見ている。


 要するに、そのような不思議な存在がいること、そしてそのあやかしの力、これらをしっかりと認識しているということだ。

 だから、素直に、あやかさんの話を聞いているんだろう。


 でも、そのあとの、お父さんとのやりとりを聞いていると、『どういうこと?』、『なるほどね…』と、あやかさんが電話に質問したり、向こうの意見に納得したりしている。

 どうも、あやかさんがあらかじめ考えていた動きと、違うものになるような感じだ。


 やがて電話が終わり、あやかさん、スマホを左手に持ったまま、こっちのソファーに戻ってきて、おれの隣に座るなり美枝ちゃんに言った。


「ねえ、美枝ちゃん…。

 悪いんだけれどさ、明日の朝、五時半集合にしてちょうだい」

 と、集まる時間が、いきなり早くなった。


「はい。

 すぐに連絡を入れますね」

 と、美枝ちゃん、あやかさんに早くなった理由などを聞かずに、ちょっと横を…北斗君の座っている方を向く感じで、島山さんとデンさんに連絡。


「二人とも、了解だそうです」


「シマさん、何か言っていたの?」

 と、あやかさん。

 美枝ちゃんの電話で、シマさんが何か話していたようだったので。


「ああ、明日の朝、念のため、家を出るとき声をかけて欲しいとのことです」


「なるほど、そうだよね…。

 シマさん、一人暮らしだもんね」


「ええ、それに、最近、夜が遅いようで…」


「そうか…。

 それで、どうして、五時半なのかというとね…」

 と、あやかさん、さっき、お父さんと話していた内容を話しだした。


 お父さんの会社自体は、今日、明日と土、日なので休みなのだが、会社のビル1階にある店のほうは、土曜日や日曜日でも開いている。

 毎日、10時開店。


 それで、店の安全性を高めるためにも、その店が開く前に、妖結晶の移動を終わらせたほうがいいのではないか、という話になったようだ。


 というのは、地下金庫に大きな妖結晶がなければ、今の萱津なら…妖結晶の存在を嗅ぎ取れるらしいので…、おそらく、そのことに感付いて、襲ってこないのではないかという期待もあってのことのようだ。


 そんな話の結果として、お父さん、この時間から、すぐにも、動き始めるらしい。

 今から、会社に行き、主だった人たちを集め、どの妖結晶を移すのかを相談し、その準備をするんだとか。


 いくら危険でも、ある程度の妖結晶は、店のほうに陳列しておかなくてはならないから、その案配を、いろいろと検討するらしい。

 絹田さんなんかも、こんな、土曜の夜なのに、これから呼び出されるんだろう。

 おそらく、徹夜の仕事になるんだろうし、大変だろうな…。


「大きな妖結晶以外のものも、こっちに持ってくるんですね?」

 と、さゆりさんが、あやかさんに聞いた。


 『湖底の貴婦人』などの特別に大きな妖結晶5個は、持ってくるに決まっている。

 だから、お父さんたちがこれから検討することの中心は、どちらかというと、普通の妖結晶…おれが絵を描いた、大、中、小140個の妖結晶のほうなんだろうから。


「ええ…、萱津の狙いは、今までとは違っていると思うのでね…」


「なるほど、今の萱津は、妖結晶ならば、小さいからといって見逃すことはないだろう、ということなんですね」


「うん、そう、思うんだ…」


「小さい方が、食べやすいかもしれないもんね…、ククク…」

 と、ここで、緊張感の全くないかをる子さんが、さらに口元を緩めながら言った。


 すると、あやかさん、やや上目遣いになって、

「そんな軽いこと言ってるけれど、戦いになったら、かをる子さんも、ちゃんと戦ってもらうからね」


「えっ? 戦いか…。

 と、なると、さっきの話に戻るよね」


「どう戦ったらいいのか、ということ?

 相手を飲み込むことはしないという条件付で…」


「そうよ。

 その条件だけは、絶対なんだから…」


 と、ここで、おれ、思った。

 で、すぐに発言。

「ねえ、かをる子さん。

 妖魔を作って、それにアイツを飲み込ませたらいいんじゃない?

 それなら、可能だよね」


「うん?

 龍平、少しは頭を使うようになったけれど、やっぱり、抜けてるね…。

 妖魔にアイツを飲み込ませる。

 それは可能だと思うよ。

 でも、ここまではいいんだけれどもね…、でも、妖魔がアイツのエネルギーを同化できずに…、だから、逆に、妖魔自体が、飲み込んだアイツに乗っ取られでもしたら、どうなると思う?

 動きはインプットできても、妖魔は単なるエレルギーの塊だからね…。

 アイツに、大きな妖結晶、丸々1個プレゼントするようなものだよ」


「あっ、そうか…。

 それだと、アイツが余計に強くなってしまうもんね。

 それで、相手がどの程度までのエネルギーを吸収できるのか、耐えられるのか、そいうことが問題だったのか…。

 なるほどね」


「だろう?

 アイツのこと、よくわからないからね」


「あれ?

 でも、妖魔と同じようなエネルギーならば、あやかさんの妖刀『霜降らし』で刺せばどうなるんだろう?」

 と、おれ、また思いついたことをそのまま呟いた。


「うん?

 なるほど…。

 ひょっとしたら、それ、使えるのかな…?

 アイツのエネルギーの形態、わたしとよく似ているからね…」

 と、かをる子さんが考えに沈んだ。


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