3-8  砂場の中

 こんな時に、かをる子さんが、恩着せがましい形で言ったのと、さらに『ニッ』と笑ったので、あやかさん、逆に、ちょっと緊張が解けたようだった。


「フ~ッ、ありがとう。

 それじゃ、今、そいつらがいる場所もわかるの?」


「ああ、もちろん。

 葛西やその4人、マークを付けた全員がね、水戸の近くのアジト…、前に、龍平が監視カメラを盗んだ家にいるよ。

 だから、おそらく、萱津もそこにいるんじゃないかな…」


 かをる子さん、わざと『盗んだ』と言ったに違いない。

 おれをチラッと見て、うっすらと笑ったの、おれ、わかったから。

 で、おれ、そういうのにちゃんと反応しちゃって、あ~あ、いつまでも言われるんだな…と、ちょっと、落ち込む感じ。


「あそこの家か…。

 ねえ、アイツらに動きがあったら、すぐに教えてね。

 夜中でも、いつでもかまわないから」

 と、あやかさん、かをる子さんに頼んだ。


 アイツが動き出したら、こちらも、すぐに対応しなくてはならない。

 今は、それだけ、危険な状況と言うことだ。


「ああ、今回は、そうするつもりだよ」

 と、かをる子さんも、きっぱりと返事した。


 このとき、食事の用意ができて、とりあえず、食事も始めることになった。


 すると、すぐに、さゆりさんが、

「ちょっと、美枝ちゃんを呼びますね。

 1時間後でいいですね?」

 と、椅子を後ろに下げながら、あやかさんに確認した。


 ここでは、こういう危険性の高い緊急時には、このような形で動き出すのかと、おれ、初めてわかった感じ。

 やっぱり、あやかさんとさゆりさん、それに美枝ちゃんの3人は、常に情報を共有し、しっかりとした連携のもとに動いているのだ。


「美枝ちゃんたちの都合もあるだろうから、2時間後でもいいよ」

 と、あやかさん。


「いえ、いつ敵が動かないとも限りませんから、1時間後にしておきます」

 と、さゆりさん、最初に自分で考えた通りに決めて、席を立ち、部屋の隅でスマホに向かった。


「30分を目標に、ここに来るそうです」

 と、席に着きながら、あやかさんに報告。


「30分か…。

 それじゃ、こっちも急ごうか」

 

 確かに、速いほうがいいのだろうが、美枝ちゃんたちも、ちょっと大変そうだ。

 おれたちもビールは終わりとして、食事に専念した。


 食事がほぼ終わりに近付いたとき、おれ、また気が付いたことがあったので…黙々と食べていると、いろんなこと考えるので…、グラスに残っていたビールを飲み干して気持ちを落ち着け、隣のあやかさんに声をかけた。


「ねえ、あやかさん…」


「うん?なあに?」


「あの…、お父さんの会社の金庫、アイツに対しては役に立たないかもしれないってことだったよね…。

 それに、今の警備も…。

 それならさ、大きな妖結晶だけでも、念のために、こっちに移しておいたらどうなのかな…」


「こっちって?」


 あやかさんが『こっちって?』と聞いたのは、たぶん、同じ敷地の中でも、このうちなのか、お父さんの家なのか、ということだろう。

 お父さんの家の地下には、やはり頑丈な金庫がある。

 でも、アイツに対しては、役に立たないということでは同じなんだろう。


「もちろん、この家だよ。

 アイツが警戒するかをる子さんもいるし…」


「なるほど…。

 私たちの危険は増すけれど、妖結晶の安全性も増す、ということよね。

 フフフ、これは、面戦争かな…」


「確かに、私たちで妖結晶を守るのでしたら、会社でよりも、ここの方がいいかもしれませんね」

 と、さゆりさん。


「こっちだと、監視などにおいても、全体を把握しやすいでしょうしね」

 と、有田さんも賛同してくれた。


「そうね…。

 向こうだと、確かに戦いにくいよね。

 で、妖結晶、このうちに持って来るとして、とりあえず、どこに仕舞っておけばいいのかしらね?」


「かをる子さんの敵は、妖結晶がどこにあるのかを探るような、特別な力というものを持ってるんでしょうか?」

 と、さゆりさん、かをる子さんに聞いた。


「ああ、あれだけ大きな妖結晶だから、離れていても、たぶん、うっすらとはわかるんだと思うよ。

 わたしの存在にすぐに気が付くのと同じようにね…。

 妖結晶も、わたしと同じような臭いがするんじゃないのかな…ククク」


 また、小さく笑ったかをる子さん。

 なんだか、こんな時なのに、かをる子さん、妙に楽しそうだ。


「臭い、なの?」

 と、あやかさん。


「まあ、臭いそのものではないんだけれどね…。

 ただ、人間が臭いを感じるような、そんな感覚に近いようなもの…といったところなのかな?

 いや、それだと、人間と言うよりも、犬といった方がいいのかな?

 鋭く、広い範囲を探れるという意味でね…」


「それじゃ、どこに隠しても、すぐにバレちゃうってことなのかな…」


「クンクンと嗅ぐような感じでね。ククク…」

 かをる子さん、そう言って最後にちょと笑ったけれど…たぶん、アイツが犬みたいにと言うことでだろうけれど…、あやかさん、それにはなんの反応も見せずに、


「ねえ、かをる子さん」

 と、ちょっと強めに呼びかけ、肝心な質問をした。


「この家で妖結晶を預かるとして、アイツに対して比較的安全な置き場所ってあるかしら?」


「あるよ」

 と、すぐに、かをる子さん、いとも簡単に答えた。


「えっ?あるの?

 それ、どこなの?」


「フフフ…、さあてどこでしょう…。

 うん? あやか、ちょっと怖い顔したね…。

 わかったよ。

 すぐに話すよ。

 わたしの部屋にある砂場の中だよ」


「えっ、あの…、かをる子さんが床を壊して作った、あの砂場?」


「なんだよ、教えてやったのに、その言い方…。

 あれは、作ったというか、できちゃったんだよ。

 こんな時に、あやか、嫌みな感じだな…。

 うん?お互い様?

 そうか…、まあいいか。

 そうなんだよ、あの砂場の中さ。

 あそこの、1メートルくらいの深さのところに埋めておけば、誰も盗ることできないんじゃないかな…」


「アイツでも?」


「ああ、もちろん。

 まさにアイツに対するための置き場所だよ」


「どうして?」


「それは…、もやっとだけれど、地下にあるわたしの本体と繋がっているからだよ。

 あの砂の上まで、うっすらとわたしのエネルギーが届いているからね」


「ああ、ボーッと青白く光っていること、あるものね…」


「そうなんだよ。

 徐々に溜まってくる余分なエネルギーを、放出することもあるしね。

 だからね、アイツ、怖くて、手は出せないと思うよ。

 ククククク…」

 かをる子さん、また、うれしそうに笑った。


 そのとき、かをる子さんの前に座って、食後のジュースを飲みながら、じっと話を聞いていたサッちゃんが、

「ねえ…、かをる子ねえ…」

 と、かをる子さんを見つめて声をかけた。


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