3-7 大事な視点
そうだったんだ。
かをる子さん、ヤツから伸びてきた管で、エネルギーを吸い取られてしまった、と言うことだったんだな。
電撃を受けた、と聞いていたので、おれ、てっきり、映画によくあるような、グッと手を差し出して、その先から、稲妻のような青白い筋の電撃が、ビキビキビキッと出るようなもので攻撃されたのかと思っていた。
でも、何でだろう…。
かをる子さんの話し方からすると、やられた悔しさっていうのを、あまり感じていないみたいに受け取れる。
おれがそんな質問をする前に、
「伸びてくるのって、その速度は?」
と、あやかさん。
話が、そっちの方に行ってしまった。
「かなり速いよ。
昨日、龍平が引き寄せようとしていた銃弾と同じくらいかな?
ただね、伸び方の雰囲気として、カメレオンの舌みたいな感じもしたね」
「カメレオンの舌か…」
「まあ、エネルギー体のようなものだから、そんなにはっきりとした形があるわけではないかもしれないけれどね」
「それじゃ、そのエネルギー体、伸びてきたときに、逆に、かをる子さんが吸い取っちゃうこと、できないの?」
と、あやかさん。
「イヤだね」
と、かをる子さん、言下に拒否。
「えっ?イヤ?
嫌なの?」
「ああ、イヤ。
できるかどうかというよりも…、具体的に考えたくもないね。
そう、できたとしてもイヤ。
あんな汚いもの、吸い取るなんて…、そう、例えばね…」
「ああ、わかった。
よく、わかったわよ。
わざわざ、汚いものを飲むような例を出さなくてもいいからね」
と、あやかさん、かをる子さんの言葉をすぐに切って、続きを言わせないようにした。
あやかさんがここで止めてくれなかったら、聞いただけで気持ち悪くなるようなこと、かをる子さんが言おうとしたのが、おれにだってわかった。
で、ふと思って、かをる子さんに聞いてみた。
「おれが、それ、引き寄せてちぎり取っちゃうということ、できますかね」
「ああ、なるほど…。
はて、どうなんだろうね…。
物質にまではなっていないからね。
う~ん、できるかもしれないし…。
機会があったら、やってみなよ。
ただし、速いよ」
そうか、銃弾と同じくらいの速さじゃな…。
でも、先端は速くても、伸びてくるものなら、付け根付近は伸びきって動かない時間がいくらかありそうだ。
自分に向かって伸びてくるのではなければ、ひょっとすると、根元数十センチなら、ちぎり取ること、できるかもしれない。
念のため、イメージ作りだけでもしておこう。
「ただねぇ…」
と、かをる子さん、こんな時に、ニッと笑ってあやかさんに話し始めた。
「今日、あんなに攻撃的なアイツが攻撃してこなかったということ…。
それと、あれだけ、私たちを警戒していたということ…。
これらのことからすると、アイツ、今日は、戦っても勝てないと思っていたのに違いないんだよね…。
あんな卑しいヤツが、勝てるのなら、どこであろうと、攻撃するのを我慢するわけないからね」
「なるほど…。
確かに、そう考えられるわよね…」
「ククククク…。
こっちが、攻撃方法を知らないなんて、アイツ、思ってもいないんだろうね…。
ククククク…」
と、かをる子さん、妙に楽しそう。
あやかさん、ちょっと怪訝な顔をして、
「それ…、笑うところ?」
「だって、面白いじゃないのさ,ククク…」
まあ、面白いのかもしれないけれど、ちょっと、笑っていられることでもないように思うんだけれど…。
でも、かをる子さんが、本当に楽しそうに笑っているので、ちょっと緊張していた雰囲気が、なんとなく和んだ感じがした。
あやかさんがフッと息を抜いたのがわかった。
あやかさん、おれの方を見て、ニコッとしながら目をくりっとさせて、
「ほらっ」
と言って、残り少なくなったおれのグラスに、ビールをついでくれた。
続けて、あやかさん、ビール瓶を差し出して、有田一光さんのグラスに注ぎたした。
有田さんも、うれしそうにグラスを持った。
と、そのとき、また、いつものように、関係ないこと、フッと気が付いた。
すぐに、あやかさんに、おれ、今、気が付いたことを話す。
「ねえ、あやかさん。
萱津、妖結晶のエネルギーが、ストレートに自分のエネルギーになることわかったんだとさ、今まで以上に、妖結晶を欲しいと思うんだろうね。
かをる子さんに対抗するためにも…」
あやかさん、『うん?』とした感じでビール瓶を置き、すぐにおれの顔を見る。
「そうだよね…。
それ、大事な視点だよね…。
いつでも使えるバッテリーのようなものだしね…。
となると、こっちに仕掛けてくる動き…、速くなるのかな?」
と、ちょっと、緊張した感じになった。
「これからは、今までの萱津ような動きではなくなる、と言うことなんでしょうね」
と、あやかさんの正面に座るさゆりさんが、ゆっくりと言った。
おれの前に座る有田さんも、大きく頷いた。
それを聞いて、かをる子さん、もっと恐ろしいことを言った。
いつものように、のどかな感じで、何事もないような顔をして。
「アイツだとさ…、電子的な鍵でも、わけなく開けられるはずだよ。
だから、厳重な会社の金庫だって、破るのは簡単なことだろうね…。
それに、邪魔だと思ったら、そこにいる人間、みんな殺してしまうかもしれないよ」
「それって、お父さんの会社のこと?」
と、あやかさん、驚いた声で聞いた。
「ああ、そうだよ。
あんな金庫なら、わたしでも、なんてことなく開けられるよ。
前に、ザラメ状の妖結晶に小さな妖魔を走らせて、龍平に見せてやったときだって、あそこにいたんだよ」
「あの時に、ですか…」
「ああ、あの時だよ。
金庫だって、たぶん簡単に開けられるよ」
「と言うことは、妖結晶は安全ではないし…、それに、何より、会社にいる人たちは、危険だということなのよね?」
と、あやかさん。
「ああ、邪魔だと思ったらね。
アイツは昔から、鳥でも人間でも、平気で殺していたからね」
「そうか…、かをる子さんのように、寄り付くんじゃなくって、アイツは、体を乗っ取っていた、と言うことだったものね」
と、あやかさんも、その危険性を認識した。
このときから、あやかさんも、かをる子さんの敵を『アイツ』と呼ぶようになった。
「ああ、今までも、人に入っていたことは、けっこうあったからね…。
あれ、今思うと、みんな殺されていたんだろうね…。
誰の体でも乗っ取れるのかどうかはわからないけれど、でも、アイツの都合次第で、ほかの人間にでも鳥にでも入れるし、あとのことはどうでもいいんだろうね…」
「お父さんが、危険かも…」
と、あやかさん、急に、緊張感が高まった。
「さっき、空港で、葛西の周りにいた連中にもマークをしておいたけれど、まだ、動きはないようだけれどね…」
と、かをる子さん。
「マークしたって?」
と、あやかさん。
「むさ苦しすぎるのは、葛西だけで勘弁してもらうけれどね。
でも、ほら、背広を着ていた4人よ。
彼らは、まあ、イヤな雰囲気は持っていたけれど、葛西よりかは、まだマシだったからね…。
ここはあやかのために我慢しようと、マークしておいたんだよ」
と、かをる子さん、ニッと笑って、ちょっと恩着せがましく、あやかさんに言った。
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