第3章  本気でやんなくっちゃ

3-1  おやつ

 おれが銃弾を引き寄せられるかどうかを調べる実験、昼過ぎに始まったのだけれど、終わったのは4時近く。


 銃弾のいろいろな引き寄せパターンだけでなく、かをる子さんのヒントをもとに、みんなが、ああすればいいんじゃないの?いや、こうすればどうなるの?というのを、おれ、すべてまともに付き合っていたので、この時間になってしまった。


 まあ、すべてに付き合ったのは、なんだかんだ言っても、みんなの提案って、それぞれがユニークで面白くって、おれ自身も興味を持ってしまい、なるほど、それじゃあ、次はそれをやってみましょうか、の繰り返しだったから。


 出される提案を聞いていて、本当に、ここの人たちって、独創的な思考を持った人たちの集まりなんだと思った。


 で、そんなにやっていて、銃弾は足りたのか、というと、半分以上余っている。

 というのも、途中からは、飛んで来る銃弾を引き寄せるのではなくて、カセットに入っている中から銃弾だけを引き寄せたり…これ、引き抜く、と言ってもいいような感じだったんだけれど…、銃そのものを引き寄せたりしていたから。


 で、一通り終わると…、というよりも、おれが疲れてきたようなのを見て、

「それじゃ、そろそろ終わりにしようか」

 と、あやかさんの解散宣言となった。


 片付けが気になったんだけれど、これは、あとで、浪江君がやることに、もう決まっていた。

 いくらなんでも一人じゃ大変だろうと、その手伝いは、と聞くと、もう、すでに、北斗君がするということになっていた。


 今日は、おれは不要、手伝わなくてもいいらしい。

 この辺の取り決めやその調整、いつも、おれにとってはとても不思議な感じ…、ほぼ、自発的に、いつの間にかできあがっている。


 で、階段を上がって、作業場に出ると、あやかさん、窓から明るい空を見て、

「ちょうどおやつの時間だよね」

 と、美枝ちゃんに言った。


 この季節のこの時間、確かに外はまだまだ明るいんだけれど、でも、おれとしては、おやつには、もう、ちょっと遅いんじゃないかと思った。

 だってね…、この時間、おやつだなんて言うよりも、もう、ビールの時間に近いんじゃないかと思って…。


 でも、

「そうですね。

 ちょうどいいですね」

 と、美枝ちゃん、ニコッとして答えた。


 その隣で、サッちゃんばかりでなくさゆりさんまで、うれしそうに口元を緩めてコクッと頷いた。

 ということで、また、みんなそろっておやつを食べに、家に戻ることになった。


 さゆりさん、すぐにスマホを出して、たぶん、静川さんにだと思うんだけれど、これからみんなが戻ること、連絡していた。

 この電話、コーヒーを淹れる関係で、静川さんに頼まれていたんだろうと思う。


 ただ、デンさんと島山さんは、やっぱりかなり忙しいらしくって、作業棟の脇であやかさんに一言挨拶してから、あたふたと駐車場の方に早足で向かった。


 それでも、別れ際に、デンさん

「リュウくん、なかなか面白かったよ。あれでできること考えておくから、またね」と、

 それに続けて島山さん

「うん、面白かった。ヒトナミ、さらに進化したら、そのときもね」と、

 二人それぞれ、おれに声をかけてくれた。


 そんな感じで二人と別れ、家に戻る途中。

 春の夕方、と言うにはちょと早いかもしれないけれど、なんとも気持ちのいい夕方近くの時間帯だ。


 家に向かって、のんびりと、ぞろぞろ歩いているとき、それまで、かをる子さん、何かを考えているような感じだったけれど、ふと、隣を歩くあやかさんに、


「ねえ、あやか…。

 萱津の乗る飛行機って、離陸するのは、今晩だったよね…」

 と、なんとゆったりとした感じで聞いた。


 あやかさん、なんなんだろう、というような雰囲気で、

「ええ、成田に明日の夕方に着くんだからね。

 確か、日本時間で、明日の朝…、未明に出るような感じだったわよ」


「そうだったよね…」


「どうかしたの?」


「うん…、わたしがマークしている男がね…。

 ほら、萱津と一緒に動いている男だけれど…。

 どうも、今、太平洋の上を飛んでる感じなんだよね…。

 それも、かなり、日本に近付いていてね…」


「えっ? それって、萱津も一緒ということ?」


「いや…、それはわからないよ…」


「わからない、の?」


「うん、わからない…」


「どうしても?」


「えっ? …

 あっ、いやだよ。

 いやだからね、あやか。

 絶対に…、いや。

 今、位置を探ってみたけれど、これだって、本当は、いやだったんだから…」


「ふ~ん…そうか…。

 そういうものだったのよね」


「ええ、そう…、そういうものなのよ。

 それで、今は、その男の、大まかな位置情報だけだしかわからない、ということよ」


 かをる子さん、澄ました感じで、それで切り上げた。

 でも、あやかさん、それ以上の無理強いはしなかった。


 まあ、本当は、軽く寄り付いてもらって、正確な情報を持ってきて欲しいんだろうけれど、かをる子さんにとってみれば、おれが下水に飛び込まされるのと同じような感覚のことらしいので、いくらなんでも、強くは頼めないよね。


 ということで、現時点で考えられることは2つ。

 かをる子さんがマークしている男は、萱津と別に、早めに帰国しようとしている。

 あるいは、萱津も一緒で、早めに戻ってくる。


 おれたちの後ろを歩いていたさゆりさん。

 その話を聞いて、すぐに状況の可能性を判断。


「ちょっと、有田に確認してみますね」

 と、あやかさんに断りを入れ、すぐにスマホを取り出し、有田さんに連絡をとった。


 実は、女性たちのそのような会話の間、おれは、ちょっとボ~ッとした状態のまま、あやかさんの隣をトボトボと歩いていた。

 位置的には、おれとかをる子さんで、あやかさんを挟むような感じ。


 そして、さゆりさんは、その、おれたちの後ろを、サッちゃんを挟んで美枝ちゃんと並んで歩いている。

 北斗君と浪江君はその後ろ、チラチラと聞こえる会話からすると、ドローンをどうやったら少ない破壊で引き寄せられるか、という話題で盛り上がっているようだ。


 そんな中で、おれは、あやかさんに右腕をつかまれたまま…ちょっと、おれを支えるような感じにもなっているんだけれど…歩いている。

 そう、おれの動き、今、なんとなく怪しい感じだから。


 と言うのは、おれ、ヒトナミ緊張、それも比較的に強いヤツ、ちょっとやり過ぎたのかもしれない。


 以前のような気持ち悪くてしょうがないというほどではないんだけれど、通常のおれの状態…まあ、おれって、本質的に、常時、ある程度はボ~ッとしているところはあるんだけれど…、でも、今は、それとは大違いなレベルで、ボ~ッとしている。


 なにしろ、実験を始めてちょっとしてから、さっき終わるまで、2時間半以上…ほぼ3時間近く、ずっと、かなり強めのヒトナミ緊張を続けていたから。


 去年、初夏から初冬までの半年、来る日も来る日も訓練していたからできたようなもので、別荘に行く前のおれだったら…というよりも、去年の夏頃のおれだったら、とっくに気分が悪くなりギブアップしていただろう。


 今でも、ヒトナミ緊張の練習は、毎朝、走ったあとには必ずやっているんだけれど、でも、こんなに長い時間続けてやったのは、別荘から戻ってからは…正確には、あやかさんを取り戻してからは、初めてなのかもしれない。


 強めとは言え、あのレベルのヒトナミ緊張を、あの程度の時間やり続けただけで、こんなにもボ~ッとしてしまうとは、思いもしなかった。


 これから、やっかいな敵との戦いとなったとき、なんとしてもあやかさんを守るためには、あの程度のヒトナミ緊張の状態をずっと維持する必要があるだろうから…なんせ、おれの力を出す鍵なんだから…、もう少し、持久力を付けておきたいと思う。


 まあ、いくらなんでも、明日、空港に行くまでとなると、それはさすがにちょっと無理なんだろうけれど…。


 で、おれ、そんな、ふらついた状態で、あやかさんに引かれるようにして歩き、家に戻ってみると、おやつの準備ができていた。


 今日のおやつのメイン、なんと、静川さん特製のプリンだった。

 この静川さんが作る焼きプリン、カラメルのほろ苦い味から始まって、すべてがピッタシコンとおれ好み。


 南平池駅の近くにあるプリンで有名なケーキ屋さんのものよりも、おれはこっちの方がずっと好きだ。

 これがあるのなら、ビールの時間は、ぐぐっと遅くなってもかまわない。


 今日のおやつが、このプリンであること、あやかさんや美枝ちゃんたちは前から知っていたとのこと。

 実は、このおやつ、あやかさんが、今朝、静川さんに頼んていたものなんだそうだ。


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