2-10  イメージ

 銃弾は、まだ100発近くも残っているとのこと。

 それなら、まだ心配しなくてもいいか…、と、ちょっと気が楽になった。


 気が軽くなったついでに、そうだ、今度は、音がしたと思ったら…弾が見えた判断なんかしなくてもいいから…、もう、弾が銃口の先にあると決めつけて、イメージを膨らませて引き寄せてみようかな,なんて考えてみた。

 撃ちます、バキュン、で、スタート、といった感じ。


 そんなことを考えているとき、視界の脇の方で、かをる子さん、あやかさんに、何か、ぼそぼそ話しているのが見えた。

 あやかさん、それを聞いて頷いて…たぶん、わかったわ、とかなんとか言ったんだと思う、で、チラッとおれの方を見て、ニッと笑った。


 このあやかさんのニッという笑い、おれに、何か、いたずらを企んだときの癖なんだけれど…、でもなあ…、いくらあやかさんでも、まさか、こんな時に、いたずらはしてこないよな…。

 でも、なんなんだろ…。


 というようなことを頭の端っこで考えつつも…二人の動き、ちょっとは気になったのでね…、でも、それを振り払って、今やっていること、これからしようとしていること、これに集中することにした。


 次は、銃弾が見えた瞬間、というよりも、音が聞こえた瞬間に、引き寄せてみようと決めて…、まあ、実は、さっきの最後、五発目の時も、見えた瞬間にやってみようとしたんだけれど、音がしたと思ったら、すべてが終わっていたような状態だった。


 見えることは見えても、銃弾が早すぎて、精神的な動きが追いつかなかい、というのが実情だ。

 それで、そういうこともわかってきたので、今度は、もう少し早めに準備としての動きを始め、音と同時に引き寄せて…、うん、まあ、なんとかやってみよう。


 それに、仮にうまくいかなくったって、銃弾が、まだまだいっぱいあるんだから、このパターンを、何回か、練習してみればいい。

 何回かやって、それでもダメなら、また、そのとき。

 もう一度、何か、ほかのことを考えてみるつもり、と、気を楽にした。


「それじゃ、また、お願いね」

 と、浪江君に言って、まるで、打席に立つバッターのような気持ちで構えにはいった。

 正面を見据えて、やや腰をかがめ、右手を、わずかに前に出して。


 いよいよ、次のスタートの合図。

 「では」

 と、浪江君が言ったときだ。


 いきなり、ブワッと、大きな波動がおれを貫いた。

 これは、あやかさんが、『神宿る目』になったときの波動だ。

 当然、おれの目も色が変わる。


 でも、そんな波動を感じない浪江君、

「撃ちます」

 と続けて言って、今までのタイミングで銃弾を発射。


 あやかさんの波動はわかったものの、それは、頭の片隅でのこと。

 この段階では、おれも、全神経、拳銃の先に集中していたので、準備していた気持ちの通りに、弾が見えた瞬間…、と言うよりも、音とほぼ同時に…、いや、ひょっとすると、『撃ちます』の直後で、音がするなと思ったときに、引き寄せの動きに入った。


 バキューンと音はしたが、直後のお決まり、バシッという音はなかった。


「アッチ」


 いきなり手のひらに熱さを感じ、右手を、開きながら上に跳ねあげると、床で、ココ~ンと音がした。


 見ると…、そこには、銃弾が転がっていた。


 えっ?

 できちゃった…。


 あっ、『できちゃった』っていっても、これ、銃弾を引き寄せることができたと言うことなんだけれど…。

 えっ? そんなことわかっているって?…。

 そう、おれ、なんか、今、すごく混乱している感じなもんで…。


 だって、今、瞬間的だったけれど、完全な失敗だったと思ったから。

 というのも、実は、今のは、銃弾を見て引き寄せた感じじゃなくって…、バキューンと音がした瞬間…あるいは、その直前に、早まって、銃口から出てくるものとしてイメージしていた弾丸、それを、まだ見ないうちに引き寄せたから…。


 だから、予測による引き寄せ…。

 まだ、そこにはないかもしれないものを引き寄せたので…、

 なんか、これ、本質的に違う気がして…。


 と、そんなこと考え出したとき、北斗君がパチパチパチと手を叩き始めた。

 そこから、みんなに拍手の輪が広がる。

 みんなが、盛んに拍手してくれている。

 かをる子さんまで、うれしそうに…。


 でも、何か、違う感じなんだけれど…。

 そうだ、そもそも、おれ、目の色、変わっていたし…。

 そうか、さっき、かをる子さんが、あやかさんに、ゴニョゴニョ話していたのは、このことだったのか…。


 頭の中は混乱したまま、状況だけが、少しわかった。

 それで、まず、そのことを、かをる子さんに聞いてみた。

「目の色を変えると、引き寄せやすくなるんですか?」


 すると、かをる子さん、うれしそうな笑顔で、

「当たり前だろう」

 と、きた。


 そして、続けて、説明してくれた。

「龍平の目の色が変わるというのは、ある精神状態になったことを示すひとつの反応…だから、病気における症状のようなものなのよ。

 龍平の言葉で言う『ヒトナミ緊張』…。

 今、ヒトナミ緊張をしていますって状態になっているのよ。

 その状態が、龍平の力を出すのには重要な鍵。

 もう、とっくにわかっていることと思っていたけれどね…」


「ヒトナミ緊張が、鍵、ですか…」


「そう、鍵…。

 今回だって、龍平の持っている力を、目一杯に使うには、その鍵が必要…。

 判断の速さも含めてね」


「判断の速さも、ですか…」


 銃が撃たれたとき、おれの判断、少しは、速くなっていたのだろうか?

 おれにはよくわからないけれど、結果からすると、そうなのかもしれない。

 いや、そうなんだろう。


「龍平、あの『ヒトナミ緊張』、あやかを取り戻そうと、訓練を重ねたんでしょう。

 ククク…、3年から5年はかかると思っていたのにね…。

 あやか恋しで、半年であのレベルに行ったんだもんね…、ククククク…。

 せっかく苦労して手に入れた力なんだよ。

 こういうときに、ちゃんと使わなくっちゃダメじゃないのさ」


 と言うことで、最後に、簡単なお叱りの言葉が付いていた。


 で、昨夜、美枝ちゃんが言った、『銃弾、引き寄せちゃえばいいんじゃないですか?』というのが、できるということがわかったんだけれど…おれは、そんなの無理だよと言い張っていたので、完敗だったということなんだけれど…、なんとなく、予測していた通り、今日の実験は、ここまででは終わらなかった。


 このあと、かなり練習させられた。

 しかも、ヒトナミ緊張、ずっとマックス近くにして…まあ、気分が悪くなったり、気を失ったりしない範囲でのマックスだけれど…。


 それで、いろいろとやってみると、引き寄せるものが見えなくとも、例えば、まだ、銃身の中を走っている弾丸、いや、そればかりでなく、なんと、ホルダーの中から、薬莢をつけたままの銃弾まで引き寄せることができた。


 これは、ある場所に、あるはずのものを、あるんだと信じ込んで、しっかりとイメージを作って引き寄せるという、おれにとっては新しい技術だった。


 今までの、手を近づけて、壁の向こうに存在するものを探って、あると確認してから引き寄せていた、あのヒトナミの世界の技術が殻を破って進化したわけで、確認方法が簡素化し、その引き寄せられる距離が飛躍的に伸びたことになる。


 引き寄せるものが例え見えていなくても、そのものが存在するはずの場所、そして、その引き寄せるもの、この2つのイメージをしっかりと持てば、たとえ十数メートル離れていても、引き寄せられることがわかったのだ。


 そして、この、イメージをしっかりと持ついうことは、持ったイメージ自体が正確でなくとも、これだ、と言う強固な思い、おれ自身のことを説得できればそれでいいと言うことがわかった。


 ということで、最終的には、わざわざ、銃を撃つのを待って、やっかいな銃弾を引き寄せなくても、敵が拳銃を持っていることがわかったら、即座に拳銃だけ引き寄せてしまえばいい、という話になった。


 それで、浪江君の持っているモデルガンでやってみたんだけれど、毛布で隠されたモデルガンが、おれのイメージとかなり違うものでも、また、置き方も、おれのイメージとちょっと違っていても、ちゃんと引き寄せることができた。


 実は、今までの感覚だと、どうも、敵の持った銃を引き寄せるのって、そいつの腕ごと引き寄せちゃいそうで、おれとしては、やるの、とても怖かったんだけれど、今回、いろいろとやってみて、拳銃だけを強くイメージすれば、それでいいような感じで…、まあ、今度、必要なら、やってみようと決心が付いた。


 そして、このようなことに対しては、当然のような顔をして、かをる子さんがいろいろなヒントをくれた。

 不思議な人…いや、龍神さんだと思う。


 今日の午後、この短時間のうちに、力が、飛躍的に伸びたような気がした。




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 これで第2章を終わります。

 第3章 本気でやんなくっちゃ

   に続きます…たぶん、これが最終章になる…のかな?


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