2-6 試し
かをる子さん、おれをのぞき込むようにして、そして、とてもかわいらしい顔をして、
「ねえ、龍平…。
美枝ちゃんに、夢にも思っていないことを言われて、驚いちゃったよね…」
と、言った。
「えっ、ええ、まあ…」
かをる子さん、何を言うつもりなんだろう。
それにしても、あやかさん越しに、そんな魅惑的な顔をして…。
あやかさんまで、これ、何なんだろう?と言う顔をしている。
そして、微妙な間を置いて、かをる子さん、
「それで、龍平のことだから…、そんなこと、できるわけないじゃん、なんて考えているんだろうね…。
そうなんでしょう?
…
試してみることもしないでね」
と、最後は、ボソッと言った。
そのボソッとが、なんだか、胸に刺さった。
試してみるって…。
でも、ねえ、かをる子さん、そんなこと言ったって、ですね…。
いや、まず、その、試す、試さないの前に、ここは、開き直って、『そうだよ、当たり前だろう』と、言いたい気分だな。
相手は銃弾なんですよ、銃弾。
やってみるか、みないかのレベルじゃないんじゃないでしょうか?
で、最後にボソッと言われたことは気にかかったままなんだけれど、これだけはすぐに反論しておかなくっちゃと、
「そうは言ってもね、かをる子さん、相手は銃弾なんですよ。
考えただけでもわかると思いませんか?
引き寄せるには速すぎます。
無理だと…思います…よ」
と、おれ、言いたいことをしっかり言った…つもりだった。
でも、どういうわけか、声は、かなり小さくなっていた。
そしたら、かをる子さん、小さく笑いながら、
「ククククク…、そうなんだよね…。
銃弾は、速いんだよね…。
でもね…、せっかく、自分を広げるチャンスをもらっても、それに気が付かないというのはね…。
いやいや、いつまで経っても、変わらないもんなんだね…」
と、言った。
かをる子さん、初めに『そうなんだよね…』と言ってから『銃弾は、速いんだよね』と認めておいて、そのあとは、おれの言ったことを馬鹿にしているような感じだ…。
なんか、おれのこと挑発しているみたいだ。
うん? でも…、この言われたこと…、どういうことだろう?
『自分を広げるチャンスをもらって…』って、かをる子さんが言ったけれど、これって、やれば、できるかもしれないよ、ということを、暗に言ってるんだろうか?
だから、龍神さん、おれの知らないおれの力を正確に知っていて、できるようになるから、やってごらんよ、という、ありがたいご神託のお言葉なんだろうか?
そして、このことは…、そう、おれには秘められた力があるんだよ、という含みを持っているんだろうか?
そう、秘められた力…。
まだ未開発の、おれの力…。
この…秘められた力…って、ちょっとかっこいいかも。
ひょっとして…、
いやいや、妄想はこのくらいにしておこう。
世の中、そうそう、うまい話が転がっているわけでもないだろう。
それと、かをる子さんの言ったことで、もう一つ気になることがある。
『いつまで経っても、変わらない』って言ったけれど、これ、いつから変わらないと言ってるんだろうか…。
でもな…、このこと、詳しく聞くと、なんだか、また、前世みたいなものが出てきそうな雰囲気もあるので…そして、やっかいな感じもあるので、今は止めておこうかな…。
と、話の途中で、おれがそんなこと考え出しちゃったので…、だから、黙ってしまったので…、しかも、かをる子さんも、そのまま黙っておれを見ていたので、…まあ、このときは、かをる子さん、おれの考え、探っていただけかもしれないんだけれど…、ちょっとした間が生じたようだ。
すると、その合間を縫って、浪江君がおれに聞いた。
「ねえ、リュウさん…、前に、ここに侵入されたとき、侵入したヤツらから引き寄せて奪った拳銃、まだ、持ってますよね」
浪江君の話、『拳銃』では繋がっているものの、今までの話から、遙か彼方に飛んでいってしまったように思った。
でも、こういうこと、おれもよくやるので逆に親しみを感じた。
ただ、『奪った』というのには、ちょっと抵抗がある。
あれは、正当防衛…、でも、まあ、しょうがないのかな…。
事実としては、そうともとれるんだから…。
で、
「ああ、おれの部屋にしまってあるけれど…。
あれ、スパッと半分に切れちゃったままだけれどね」
と、素直に答えた。
浪江君、突然、何の話をしようとしてるんだろう?
「切れているのは知っていますけれど…でも、1つは、構造的には、銃弾発射には影響なかったように思うんですが…」
「銃弾発射に…?」
おれ、そんなに正確には覚えていない。
というよりは、切り取った状況と、拳銃としての構造との関係なんて、もともとしっかりとは見ていなかった。
「ええ、ですから、あの…グリップのところで切られた銃、ちょっと修理すれば、ちゃんと、弾を撃つことができるんですよ。
ということで、あれを使って…、もちろん、デンさんに手伝ってもらって少しいじりますけれど…、それで、リュウさんの近くに弾を撃ち出してみて…、リュウさん、引き寄せられるのかどうか、様子を見てみたらどうですかね…」
とんでもない提案だけれど、浪江君の話は、かをる子さんの話から、そんなに遠くに飛んではいなかった。
「それって…、今、美枝ちゃんの言ったことを、まず、実際にできるかどうか、実験してみよう、ということなの…かな?」
と、おれ、確認してみた。
わかりきってることなんだけれどね。
「ええ、そうなりますね。
かをる子さんにここまで言われたら、リュウさんだって、もう、引っ込み、付かないでしょう?
ですから、お手伝いしますよ」
いや、引っ込みなんか、いつでも付くんだけれど…。
というよりも、おれ、そんな状況に立たされているなんて感覚すら、まるで無かったんだけれど…。
でもな…、確かに、さっきは、かをる子さんに言われて、急に黙り込んじゃったから、周りからは、そう見えたのかもしれないな…。
ぐうの音も出ないってやつに見えたのかも。
やれやれ…。
浪江君には、そう見られていたのか…。
想定外の進行、ということだな。
なんて思ったとき、
「そうよね…、このままじゃ、引っ込みが付かないでしょうし…」
と、あやかさんまで、そんなふうに言い出した。
やっぱり、みんなには、そう見えたような感じ…、かな?
「ねえ、あなた…。
ものは試し。
やってみなよ」
この、あやかさんの一言で、とんでもない『試し』をやることが、アッという間に決まってしまった。
すると浪江君、
「今晩から準備するので…」と、
明日の午後には、準備ができます、と、きっぱりと宣言した。
…そう、『言った』というよりも、明らかに宣言だった。
この宣言、だから、おれも、必ず、その時間に、試してみなければダメですよ、ということに繋がるようだ。
それも、空港に行く前の方がいいでしょう、ということで。
彼、アルコール類を飲んでいないから、こういう動きは、とにかく速い。
今晩、すぐに動き出して、明日の昼までには確実に準備します、と言うことで、すぐにデンさんに電話し始めた。
この、浪江君がデンさんに電話したのは、手伝ってもらうのもあるけれど、明日の実験、作業棟1階の、デンさんの作業場でやるつもりだから。
もう、具体的な案が、彼の頭の中には、できあがっているようだ。
すると、有田さん、おれの方を見て、一度、小さくニッと笑い、横…電話を終えた浪江君の方を見て、
「ねえ、もっと弾が必要なら、明日の昼までになんとかできるよ」
と、言った。
えっ?と驚いたのはおれだけのようで、
浪江君、
「あっ、そうですか。
それは助かりますよ。
是非、お願いします」
と言うことで…、
ねえ、この流れって…銃弾が何発もあるという状況って…、ひょっとすると、おれ、銃弾の引き寄せができるようになるまで、何回も何回も、引き寄せ、やらされるんじゃないでしょうかね…。
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