2-5 最強
参加希望を表明したサッちゃん、続けてすぐに、
「一度は空港も見てみたいし…」
と、社会勉強を兼ねているんだと、参加の目的を補強し始めた。
さゆりさんと有田さん、一瞬、顔を見合わせた。
さゆりさんとしては、もともと、サッちゃんを連れて行くなんて気持ちはなくて…、そう、まさに青天の霹靂、こんな時にピカッと光ってゴロゴロ鳴るなんて、思ってもみなかったことなんだろう。
だからなのか、さゆりさんも有田さんも、サッちゃんの突然の話に、キョトンとなって、すぐに、反応…いや、反対かな、できなかった感じ。
でも、実は、勝負は、これで決まっていた。
当然、危険性もあるので、連れて行くのは心配だ。
みんなも、気になるところはそこ。
単に、空港を見学に行くのとは、わけが違う。
でも、サッちゃん、さゆりさんが体制を整える前に、どんどん話を先に進める。
『こっちの世界にきて、一番驚いたことは…』と、自身の生い立ちの特異性を有効に使って話しだし、その驚きの第一に飛行機があったことを強調する。
そもそも、さゆりさんから…サッちゃんは、『お母さんから』と親しみを込めて言って、この情報源は、親愛なるお母さんなんだと強調しておいて…、家よりも大きなものが空を飛ぶと聞いたとき、初めは、どうしても信じられなかった、という最初の感想から話し始めた。
そのすぐあとで、別荘で、飛行機が空高く飛んでいるのを初めて見たとき…これも、お母さんが飛んでいるのを教えてくれたんだと、さゆりさんとの関わりを補足しておいて…、『ああ、本当なんだ』と深く感動しつつ、あんなにも高く飛べるんだと大変驚いた。
そして、その驚きは、今になっても消えることはない。
最近も、空高くに飛んでいるのを時々見るけれど、本当にすごいな、と思う。
でも、小さくしか見えず、そのようなときには、間近で見てみたいと思っていた。
さらに、離陸するときや着陸するとき、翼のフラップがどのようになっているのかなど、実際に、しっかりと見てみたい…、などと、おれでも驚くような具体的な名称がいくつも出てきて、かなり、説得力がある話し方。
このような話し方って、あやかさんに似ていて上手だ。
聞いていて、引き込まれていくので、こういうのって、持って生まれた才能なんだな、と、おれ、思ってしまったくらい…。
この歳になっても、おれにはないものだ。
サッちゃんの話、説得力があり、一度聞き役に回ってしまったさゆりさんと有田さんは、ずっと押されっぱなしで、話す機会もないまま、もう、土俵際。
みんなも、これは、サッちゃんの完勝だな、と思っているようだ。
もともと、子供だから行ってはダメだ、と言うような固定的な感覚のない連中、小さな笑みを浮かべ、黙って頷きながら、サッちゃんと、有田夫妻を見ているだけ。
そして、そんな、一生懸命に説得するサッちゃんを、かをる子さんは、おもしろそうに、そして、なんだか、とてもうれしそうな顔で見守っていた。
かをる子さんも、サッちゃんのこと、すごくかわいいと思っているの、明らかだ。
サッちゃんの話が一区切りし、一緒に行くことが決まりそうになったとき、
「サーちゃんの顔、知られている可能性が高いんだよね…」
と、あやかさんがポツッと言った。
この、あやかさんの発言、サッちゃんも成田に行くとすると、この段階では、母親のさゆりさんと一緒に動くということが前提になっているような感じだ。
それで、さゆりさんの顔が、萱津たちに知られているとなると…、と、あやかさん、急に、心配になってきたみたいだ。
だから、言いたいことはその先のはず。
さて、どうしようかね、ということなんだろう。
「ええ、実は、わたしも、そう思っていました…」
と、さゆりさん。
さゆりさんとしては、そこにも引っかかっていたようだ。
「そうだよね…。
サーちゃん、ずっとわたしと一緒にいるし、なにしろ、長いからね…」
とあやかさん。
そのとき、美枝ちゃん、
「お嬢様…、もし、サッちゃんが行くとなったら、サッちゃんは、わたしやホクと一緒にいるのがいいと思います。
浪江君も一緒ですし…」
と、サッちゃんを援護。
これ、ダメ押し的な強力な援護…、これで、サッちゃんが行くことは、もう、このまま決まってしまうんだと思う。
それで、どうするかが、次の話題となる。
「なるほど…。
で、サーちゃんは?」
と、あやかさんが美枝ちゃんに聞くと、
「さゆりさんは、初めから、お嬢様と一緒の方がいいと思います。
たぶん、向こうには知られていると思いますので…」
と、美枝ちゃん。
美枝ちゃんの考え、顔が知られている可能性がある人間は、すべてまとめておくということなんだろうな…。
なるほどね…。
あそこにも、ここにも知った顔がある、というよりは、知っている顔がまとまっていた方が、向こうの警戒が1点に集中し、周囲への注意はやや散漫になるかもしれない。
しかも、この3人、あやかさんにさゆりさん、それにかをる子さん、全員が、『もの凄い』が付く美女ときている。
男の感覚で判断すれば…これ、あやかさんには内緒だけれど…、この3人が並んで立っているだけで、否応なしに、そこに注意が引きつけられてしまうだろう。
だってねぇ、相手は、萱津だけではないからね。
萱津に同行する男たち…コイツらまで、あやかさんやさゆりさんの顔を知っているのかどうかはわからないけれど…、萱津の緊張に伴って、その緊張の原因となるこの3人の美女に目が行けば…。
そう、もう、ダメ。
いろいろな意味で、ソイツらの目は、釘付けになってしまうはずだ。
仮に写真などで知っていたとしても、写真で見るのと、実物は大違い。
さゆりさんだって、年齢はあやかさんよりもかなり上だけれど、実際よりもずっと若く見えるし、引き締まった体のスタイルも良く、本当に、落ち着いた感じの美人だ。
かをる子さんは、もちろん、敵の誰にも知られてはいないだろうけれど、この、長期間かけて磨き上げた美人度は、群を抜いている。
なんせ、気に入らなければ、自由に修正できるようだから…。
しかも、体つきが、すっきりしているようでいて、どういうわけか、肉感的。
この微妙なバランス状態も、いろいろな経験のあげくのような気がする。
ということで、この美枝ちゃんの提案、サッちゃんへの危険が減る、ということにも繋がりそうだ。
で、美枝ちゃん、続けて、
「それに、何かあったときのために、リュウさんがこっちに一緒にいてくれるのがいいと思うんですが…」
と、思わぬ提案。
まあ、おれ、どこにいるのか、まだ、まったく決まってはいなかったんだけれど。
「うちのひとも?」
と、あやかさん。
そう、何で、おれがご指名なんだろう? と思うよね。
でも、この一言、あやかさん、なに構えることもなく、反射的に、おれのこと、『うちの人』と言ってくれた。
ククククク…。
これは…、おれとしては、こんな時だけれど、ちょっと、うれしい。
「ええ…」
と、美枝ちゃん、おれの方をチラッと見ながら返事をし、ニッと笑って、
「本人は、まるで自覚ないんだと思いますけれど、一応、このメンバーで、最強だと思いますので…」
これには、おれがビックリして、反射的に、
「えっ?
おれ、最強?」
と、聞き返してしまった。
なんで、そんな、おれのことで、『最強』だなんて単語が出てくるの?
まったく理解不能。
すると、美枝ちゃん、
「ね、全然、自覚ないでしょう?」
と、あやかさんに言ってから、おれに向かって、
「リュウさん、例の、引き寄せるの、毎日練習しているんでしょう?
かなり進化しているみたいじゃないですか。
林でやってるの、チラッと見たことあるんですけれど、あれなら、拳銃の弾でも引き寄せられるんじゃないですか?」
「えっ?拳銃の弾?」
「ええ、ですから、たとえ、拳銃で撃たれても、飛んできた弾を引き寄せちゃえば無力化できるんだと思うんですけれど…」
ええ~っ、飛んできた拳銃の弾を…、引き寄せる?
何言ってるの、美枝ちゃんは…。
そんなこと、できるわけ、ないじゃないの。
拳銃の弾って、すごく速いんだよ。
速すぎて、見えるかどうかすらわからないのに…。
それを引き寄せる?
引き寄せようとしたときには、おなかに穴が空いてるよ。
絶対に不可能なこと、言わないでほしいな…。
すると、かをる子さん、急にクッククックと笑い出し、おれを見て、いたずらっぽい顔をした。
かをる子さん、本当にすごくきれいで、しかも、この、いたずらっぽさを出した時って、とてもかわいい顔なんだけれど…。
でも、これは、何か、一言ありそうな感じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます