2-4  メガ

 龍神さんが、敵にすぐに気付かれたということで出てきた疑問。

 おれ、すぐに質問してみた。


「でも…、今でも、鳥に寄りついて、萱津を見張ることもあるんですよね。

 そのときに、その、萱津に融合した敵に、気付かれるということはないんですか?」


 ねえ? 必然的に、そのような疑問が湧きますよね。

 でも、かをる子さん、フッと鼻で笑うような仕草をして…、だから、いつものように、おれのこと、ちょっと馬鹿にしたようにからかって…、


「まあ、それは、軽い寄り付きだからね…。

 大丈夫なんだよ。

 しっかりとした寄り付き…、だから、鳥の動きまで、すべてを支配するような寄り付きのときとは、桁が違うのよ」


「桁が違うって…、それ、どういうことですか?」


「ああ、使うエネルギーの話よ。

 軽い寄り付きの時は、しっかりと寄りつくときの1パーセントにも満たないエネルギーで済んでるんだと思うな…。

 だから、当然、わたしの気配も薄くって…、そこまで薄い気配で、ある程度離れていれば、いくらその敵でも、さすがに気が付くことはないと思うのよ」


 なるほど…。

 エネルギーの大きさか…。

 うん?それだと…。


 と言うことで、おれ、また、かをる子さんに質問…。

 でも、この質問をしようとした直前に、あれっ?まずいかな? と、ちょっと気になった。


 というのは、おれが一人で勝手に話を引っ張って行ってるような気がしたから…。

 でも、あやかさんやほかのみんなも、この話、真剣に聞いているようなので、ちょっと安心して、このまま質問を続けることにした。

 まあ…おれでも、周囲には気を遣っているんですよ、という、念のための一言。


「そういうことだと、人間に寄りつくときには…、その、しっかりした寄り付きの方ですけれど…、鳥にしっかりと寄り付くときよりも、もっと多くのエネルギーが必要になるんでしょうね?」


 すると、

「当たり前だろう」

 と、かをる子さん、また、『当たり前』が出てきた。

 やっぱり、鳥と人間では、かなり違うと言うことなんだろうな。


「人間は、特に、いろいろとやっかいだからね…。

 いろいろな反応が、ひねくれているんだよね。

 鳥のように素直だといいんだけれど…。

 だから、使うエネルギーは、桁違いもいいところで…、そうだね…、鳥を1とすると、う~ん…、1キロくらいは使うことになるのかな…」


「えっ?1キロ…。

 それって…、鳥の時の千倍も使う、という意味ですよね…」


「そうだよ。

 すごいだろう…。

 しかも、それでも、長時間続けることはできないんだよね…。

 まあ、鳥よりも、体が大きいというのもあるんだろうけれど、やっかいだよね」


「へぇ~、1キロか…。

 それじゃ、人間の体を作って…、だから、今のように、かをる子さんとなって動いているのは?」


「うん? 今の状態?

 エネルギーで見ると、ということだよね。

 身体を作って維持することは、『エネルギーを使う』と同じように言っても、ちょっと違った状態で、比較しにくいんだけれどね…」


「でも、大きなエネルギーなんでしょう?」


「それはそうだよ…。

 この状態を維持するには、格別に大きなエネルギーが必要なんだよ。

 物理的に、実際の体を作っているわけだからね…。

 本当に、とんでもなく大きなエネルギーを使っているということなのよ」


「とんでもなく…大きな?」

 

「そう…、うん? そうか、具体的に数字として言えということよね…。

 う~ん…、ざっと見積もると…、満月の頃の妖魔と同じくらいになるのかな…」


「あの時の、妖魔、ですよね…。

 でも、エネルギーの量としては…」


 今まで、かをる子さんが話していたエネルギーの量は、概念的であって、おれにとっては、さっぱり掴めない。

 しかも、見てわかるものではなく、さっきまでの、1だとか、キロだとかいうのと、まったく比較できない。


「そう…、だから、今話していた数字で言うと…、う~ん…、本当に大雑把になってしまうけれどねぇ、1メガくらいに、なるのかもね…」


「えっ?1メガ?

 …メガですか? メガ…。

 1メガって…、鳥に寄りついているときの、百万倍の量、ということですよね…」


「そうだよね…。

 鳥への寄り付きと比べると、そんな大きな数字になっちゃうんだね…。

 こんなこと考えたことはなかったので、すぐには正確に掴めなくって…、はっきりはしないんだけれど…。

 うん、確かに、この体では…、もう少し、多いくらいなのかもしれないよ」


「それで…、昔、鳥に寄り付いていて敵にやられたのは、その、エネルギーが1の時ですよね」


「ああ、その時を1として話していたからね…」


「で、龍神さんの敵は、その鳥の時の龍神さん…、鳥に寄り付いている時のエネルギーとしての龍神さんしか知らないんですよね」


「まあ、そうだろうね…。

 ほかの状態では遭っていないからね…」


「しかも、その敵…、ひょっとすると、攻撃した相手はそのときに死んじゃって、次の時は、また別の獲物、といった感じで、3回とも、同じ龍神さんを攻撃したとは思っていないかもしれませんよね…」


「なるほど…。

 確かに、そうなのかもしれないね…」


「そうだすると、その敵が、今、かをる子さんと会ったとすると…。

 1だった大きさの獲物と、同質のものが、1メガの大きさで目の前に現れた、ということになりますよね…」


「同質ね…」


「ええ…、だから、鰯を捕って…3匹捕ったぞってやっていたのに、急に巨大な鮫のようなものが出てきたって感じで…、かなりびっくりするんじゃないですかね。

 だから、すぐには…、その場では攻撃できないようにも思うんですが…」


「ククク…、龍平、それ、面白いね…。

 なるほどね…、そうなると、ヤツはどう反応するんだろうね…。

 うん、あやか、わたしも行ってみるよ。

 二人並んで、萱津を睨みつけて、驚かしてみようよ」


「そうね。

 どうせ、萱津は、わたしの顔はわかっているし…。

 今までの話しだと、多分、かをる子さんのエネルギーも、すぐにわかるんだろうから…。

 フフフ、それが百万倍は面白そうよね」


「でも、まだ、相手の力はわかっていませんから…」

 と、さゆりさん、ちょっとお二人さんの調子を押さえようとした感じで。


「ええ、それで、サーちゃんは、少し離れたところで、見ていてよ。

 軽い警護という感じでね」


「少し離れたところで、軽い警護…ですか?」

 お嬢様、何をおっしゃっているんですか?という感じで、さめた雰囲気のまま、さゆりさんが確認した。


「イミグレーション、出てきたばかりだから、銃や剣は持っていないだろうし…。

 それと、わたしの顔は知られているけれど、ほかの人たちの顔までは知られていないと思うので、ほかの人はわたしと一緒じゃない方がいいと思うのよ。

 さて、それで、誰が一緒に行くのか、ということになるよね」


 かをる子さんとおれが話している間に、いつの間にか、あやかさんが萱津を見に行く、という方針は固まっていた。

 で、今度は、誰が、どのような形で一緒に行くか、ということのようだ。


 もちろん、吉野さんと静川さんはこういうことには参加しないのが普通で、そのほかの人での話となる。

 すでに決まっているのは、あやかさんとさゆりさん、かをる子さん。

 それに、たぶん、おれも入っている。


 すると、すぐに、

「わたしもいきます」

 と、美枝ちゃん、それに北斗君と浪江君も参加を表明した。


 でも、有田さんは、

「わたしは、万一にでも、顔を知られたくないのですが…」

 と、これからの調査の動きなども考え、行かない方がいいとは思うんだけれど、ただ、心配ではあるので…、ということで、ちょっと話し合う動きに、有田さん入ろうとした。


 でも、即座に、『確かに、そういうことなら、有田さん、大丈夫ですよ。こっちに残っていてください』とのあやかさんの一言で、有田さんは、行かないことに決まった。

 でも、何を持って、あやかさんは大丈夫と保証したんだろうかと、その根拠に、おれ、疑問を持ってしまったんだけれど…、まあ、いいか。


 ということで、とにかく、これで、参加者が決まった。

 と思ったとき…。


「サチも行きます」

 と、サッちゃんが、参加表明。

 今まで、誰の頭にも、サッちゃんが一緒に行くことは、想定されていなかった。


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