1-4  展示即売会

 それで、今、4月も下旬になろうとしているけれど、その萱津…龍神さんの敵と融合したスーパー萱津は、まだ、帰国していないらしい。

 もちろん、これ、龍神さんからの話、そのまんまの受け売り。


 龍神さんから情報をもらうたんびに、あやかさん、疑問な点はさらに細かくいろいろ聞いて、有田さんや美枝ちゃんに伝えている。

 そうやって、こっちはこっちで、裏をとるべく調べてもらっているんだけれど、有田さんの関係する筋では、萱津の動きはまったく掴めないらしい。


 そもそも、萱津のいるらしいところは、簡単な情報を得ることすら難しいような地域なんだそうだ。

 さすがの有田さんでも、ほぼ、お手上げの状態らしい。


 そんな危険なところで、萱津、何してんのかな?と思うんだけれど、龍神さん、『濡れ手で粟の金儲け』とだけ答えた。

 その前に、龍神さん、いやな顔をしていたので、かなり悪質非道な方法での金稼ぎなんだろう。


 そのとき、あまりにも、龍神さん、不愉快そうだったので…、きれいな人の不愉快な時の顔って、どういうわけか、ちょっと怖さを感じてしまうので…、さすがのおれでも、それ以上は、ちょっと聞きにくい雰囲気だった。


 でも、この話でひとつわかったのは、萱津ってヤツ、欲しいのは、手に入りにくい大きな妖結晶だけでなく、お金そのものにも、強い欲望があるようだということだ。

 萱津、欲しい妖結晶は盗んで手に入れようとしているので、それじゃあ、そのお金は、いったい何に使う気なんだろう。


 欲しいものもあまりなく、楽しく暮らしていけるだけのお金があれば、それで充分なおれにとっては…、だから、今は、もう、すべて充分な状態なんだけれど…、ヤツの行動の最終的な目的がよくわからない。


 で、その、国外での萱津の情報、龍神さんだって、時々しか入ってこないらしい。

 それで、龍神さん、国内のアジトなどの方も監視していて…、鳥だとか、動物を使っているみたいなんだけれど…、それで、『まだ、帰ってきていないようだ』と、なっている。


 そんな状態なんで…、とりあえずは、もう少し時間がありそうだ、ということになって…、まあ、ちょっと、一息入れようかな、と、今は、昼飯前に、新緑を楽しむ散歩などしていたわけなんですよ。

 うん? この原因と結果…間に、もっといくつもの思考のステップがあったかも…。


 それで、その敵に関連しての相談で、今、おれたちの最大の焦点となっているのは、妖結晶の、展示即売会のこと。

 今年は、通常とは異なり、2年連続で仙台でやることになっている。


 これは、仙台では隔年でやっていたものを、強い要望により、特別に、今年は3日間だけだけれど、去年に続いて、仙台のあのデパートで開催することになっていた。


 そう、去年、あやかさんと、初めて会った、あのデパート。

 今年も、また行くことになったし、また、物騒な相手が現れそうなのだ。

 しかも、パワーアップしたヤツが。


 で、なぜ、今年も、仙台で特別展をやるのかというと、どういうわけか、東北には、けっこう、その血筋の人たち…あの、がっちりした体型で、妖結晶を飲むと、特別な力の出る一族の人たちが、多く、また広く散らばっているらしいので、要望も強いんだとか。


 特別展をやったからって、そんなに多く売れるわけでもないらしいんだけれど…まあ、高いからね、でも、通常よりも、売れることは売れるようだし、それと、そこでしっかりと見て、欲しくなって、あとで買いに来てくれる人もいるらしい。


 でも、今年は、慣例にない特別な企画でもあり、いろいろな催しの日程の都合で、例年よりも遅く、連休明けに開催することになっている。

 この日程などは、お父さんの会社とデパートとの交渉で、去年の春には決まっていた。


 また、今年の目玉となる特別展示は、最大の妖結晶『湖底の貴婦人』ではなく、次に大きな妖結晶、『日高見ひたかみほこ』と『九重ここのえ細波さざなみ』の両方が出品される。

 それも、なんと、おれのスケッチ付きで。


 このことは、去年の夏、おれが別荘に籠もって、あやかさんの奪回に向けて励んでいる頃…、だから、お父さんだって、本当は、あやかさんのことが心配で心配で、落ち着かない日々を過ごしていた時期なんだけれど、それでもしっかりと考えて、決めていったことなんだそうだ。


 今回の、お父さんの販売戦略として、展示会で販売する妖結晶は、ザラメ状のもの以外は、すべて、おれのスケッチ付き、ということになっているんだそうだ。

 妖結晶として、どのようになっているのか、誰でもわかるようにして、だから、品質をしっかりと保証して売るということだ。


 そして、このことから、今回の企画は、すでに、かなりの評判になっているらしい。


 自分で言うのも何なんだけれど、おれの描いたスケッチをつけるというの、いい線いってると思う。


 妖結晶を判別できる人…まれにしか出現しないけれど…、その人には、石が特別な色に見えるようだ、ということは、あっちの一族の間でも広く知られていること。

 それで、妖結晶を判別する人には、実際に、どのように見えているのだろうか、ということは、みんなのすごく興味のあるところでもある。


 まあ、それはそうなんだろうな、と、おれだってよくわかる。

 おれは、たまたま、妖結晶が、特別な色合いで見えるけれど、もし、見ることができなければ、…本当に別の色に見えるのんだろうか?と疑いつつも…これ、おれの性格だから、しょうがない…、どう見えるんだろうと、当然、興味津々、となるに違いない。


 是非とも、見に行ってみよう、ということになるし、スケッチ付なら、買ってもいいかな、となる…かもしれない…かな?

 そういうことで、噂が噂を呼び、かなり期待されているらしい。


 そうそう、それと、今年は、ザラメ状の妖結晶も売り出されるんですよ。

 もともと、ちゃんとした妖結晶の欠片だったんだ、と確認できたし、わずかに混ざっていた質が悪いのは、おれ、ちゃんと除いておいたから、お父さん、自信を持って売れるようだ。


 この、ザラメ状の妖結晶については…、お父さん、さらに小分けにして、少しだけれど安く、としたらしいので…、買おうと考えている人、かなり多いらしく、初めの予定より多めに持ってきてほしいと、すでにデパートから連絡があったとか。

 情報を、うまく流したお父さん、さすがだと思う。


 それで、萱津が戻ってくるらしい今になって思えば、例年よりも期間が短くなったのは、良かったな、とも思うけれど、それでも、とんでもなく負担が大きな状況に変わりはなく、厳しい3日間になりそうだ。

 …行く日を入れると4日間の予定だけれど…。


 2つの大きな妖結晶、そう、簡単には、金庫から出てこない…、『日高見の矛』も、今は、お父さんの家の金庫から移し、両方とも、お父さんの会社で、厳重な管理下にある金庫に入っている。

 だから、こんなチャンス、萱津が狙わないわけがないんだよな…。


 しかも、今年初めに、去年同様、その管理から警護まですべてを、あやかさん、お父さんから頼まれている。


 あやかさんとしては、去年の暮れから、今回の危険性を充分承知して、前もっていろいろ考えはしていたけれど、お父さんからの要望に対しては、ちょっと駄々をこねるのかと思いきや、逆に、こういう状況のときには、あっさりと、すぐに引き受ける性格。


 簡単に引き受けておいて、『これは、大変だ~』と、いった感じ。

 今、さゆりさんや美枝ちゃんも加わり、あやかさんを中心に、詳細に作戦を練っている。


 あっ、もちろん、その中には、おれや北斗君も入っているんだけれど、何というか、客観的に見ると、こういうときのおれって、ただ、あやかさんにくっついている付録みたいな感じで、ほとんど聞き役。


 今回は、デンさんや島山さん以外の人の手助けも必要とするのか、…もちろん、浪江君は、必要不可欠な人員としてすでに入っているけれど…、それが、今の話題の中心になっているようだ。


 なお、有田さんは、こういうときには、こっちの家の守りが役目なんだそうだ。

 本当の意味での留守番、と言うわけ。

 おじいさんの会社で、有田さんの支配下に、なんだか、不思議な一隊があるらしい。


 それで、その、必要かどうかの『手助け』についてだけれど、美枝ちゃん、本当の意味での『配下』って感じの人、ここに住んでいる人たちだけでなく、実はもっと多くいた。

 地下室からの引っ越しを手伝ってくれた3人の男性は、その中の選り抜き。


 そうだな、ちょっとその美枝ちゃん関係の話もしておこう。


 うちの敷地の東側には、広い道路が走っている。

 その向こう側には、洒落た柵が続き、その向こうに並ぶ大きな木々で奥はよく見えないが、工場か何かあるのかと思っていた。


 そうしたら、そこにあるのが、なんと、美枝ちゃんがやっているあやかさんの会社なんだそうだ。

 『美枝ちゃんがやっているあやかさんの会社』だなんて、ちょっと変な言い方だけれど、実質的には美枝ちゃんが動かしている会社。


 美枝ちゃんがここに来て少し経った頃、あやかさんに、『将来、こういう会社を作りたいんですよね…』という話をしたら、『なるほどね…。それ、面白いからさ、なんなら、今、作っちゃったらどうなの?』と言って、どこからか…たぶん、おじいさんからなんだろうけれど…、『とんでもない額』の資金を用意してくれたんだとか。


 それで、美枝ちゃん、すぐに動き出す。

 あやかさんも驚くほどの速さで、組織を作っていったんだとか。

 美枝ちゃん、いつものように、ポイントになる人を、例の不思議な感覚で探してきて、数年で安定させた手腕はさすが…と、あやかさんが言っていた。


 そのような美枝ちゃんの会社が二つ、それにおじいさんの会社が一つ。

 三つの会社が、その敷地の中にはあるんだそうだ。


 ここの、おじいさんの会社は、研究所みたいな仕事が中心らしい。

 有田さんがよく顔を出し、警備会社とは別に、ここの敷地の警備なども…おじいさんの趣味的ないろいろな研究を兼ねてだけれど…あの、不思議な一隊の人たちとやっているらしい。


 最近は、ドローンの利用にも力を入れ、木戸さんも関わっている。

 その関係で、浪江君が、ちょくちょく使われているらしい…これ、美枝ちゃんを通してのこと。


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