第5話 その能力のカラクリに気づく

そうか…そうだったのか、なるほどね。

ぺし子は、太い腕をこまねいて、なるほどなるほど…と30分くらい頷き続けていた。そして、おもむろに指先に張りついた醤油せんべいのかけらをペロリと舐めてから、ついに結論を出した。

あ、言い忘れていたが、ぺし子はロト7に当たった。一等6億円に。しかし、狂喜乱舞している場合ではない。長年(3ヵ月くらい)のぺし子の謎が解けたのだ。自分の持っている能力について、名探偵オバンはついに真相を突き止めたわけである。


思い起こせば、ぺし子に「どけ、ババァ!」と叫んだがために、白い車のオッサンはコンビニの駐車場で追突事故を起すはめになった。そして、煽り運転の車に対してぺし子が瞬間的に抱いた嫌悪感が、その場に白バイを登場させたのだ、きっと。

たまたま柿をくれたお隣さんの悪口は毎日欠かさなかったし、旦那のことも嫌いじゃないけれど、やはり「元気で留守がいい」に越したことはないから、何週間も目の前にいないのは非常にありがたい。「クイズ・アホちゃいまっか?」という番組を毎週見ていたが、ぺし子はその番組が嫌いだった。インテリぶった出場者たちが、もったいぶって回答を披露したり、時にはわざとじゃないかと思えるような仕草で答えを間違って、司会の多可高司海の同情を買ったりする。実はぺし子はそのクイズ番組で一度も正解したことがなかった。その悔しさと妬みが積もり積もってついに「手綱こんにゃく!」という正解を導きだしたのだ。テレビで有頂天になっている連中に対してアホちゃいまっか?と思っていたぺし子のひがみ根性が見事に花開いた瞬間だった。


さらにぺし子の分析は続く。可愛らしく神様にお願いして裏切られた醤油せんべい増量の件や、「どうか当たりますように」と健気にお願いした時のロト7がはずれたこと、その原因は神様に媚を売っていい思いをさせてもらおうと思った結果だ。一方で「オマイらは当たるんじゃねぇ!」と毒づきながら購入したロト7は、こうして見事に一等当選を果たしたわけだ。


ようするに、ネガティブなことを考えたりムカッとしたとき、ぺし子の能力は発揮され、願望(呪い)がもれなく実現するというカラクリだったわけだ。


ぺし子は、ふふんと鼻を鳴らした。

神様、そういうわけで、もう私はあんたを信じないよ。お正月は何かと付き合いってものがあるから初詣に行くかもしれないけれど、握りしめた500円玉は賽銭箱には入れずに、行列に並んでベビーカステラを買うことにする。

ぺし子は、もはや自分には神様は不必要だと確信した。神様なんて糞くらえだ!

…と思った瞬間、神様がディナーで糞を食らうはめになったことを、ぺし子は知らない。


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ぺしこさんは罰当たり 春紫音 @haruumare

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