第4話 その能力の取扱説明書を探す

ロト7は見事に外れた。7個の当選数字に当てはまる数字は一個もなかった。

ふだんは楽観的なぺし子だったが、その時ばかりは、さすがにドーンと凹んだ。

ロト7が当たるということは、ぺし子にとって奇跡でもなんでもなく、日常の一コマにしか過ぎないはずなのだ。洗濯して夕飯はスーパーの総菜でごまかして、昼ドラ見ながらカウチせんべいするというごくありふれた日常と同じくらいの出来事なのだ。


もしかしたら…心のどこかで私はまだ何かを疑っているのだろうか? いや、そんなことがあるはずない!ぺし子は見事な二重あごの肉をぶるんぶるんと左右に振って、自分が起こした遠心力で目をまわしながら考えた。だけどもしかしたらちょっとだけ神様を疑っていたのかもしれない。神様お許しください、ぺし子は大いに反省した。

純粋さ(と図太さ)だけで生きてきた自分が、いまさら雑念に振り回されるなんて愚かしいことを続けているわけにはいかない。そう、あの頃(どの頃?)のような純粋な乙女の気持ちを取り戻さなければ。


ぺし子は自分自身を戒めるために、テレビ通販で買った「らくらく激ヤセ座椅子」に座って瞑想を始めた。2個買うと50%オフだったが、旦那のために買う気はさらさらなかったので、30分以内に申し込むと、もれなくついてくる「サザエエキス・ダイエットサプリ」だけもらった。そのサプリはいま、他のサプリたちと一緒に食器棚の引き出しにしまってある。いつか役に立つ日がくるに違いない…とぺし子は確信している。どんなものでも大切にする「主婦の鏡」であり続けることが自分の使命であるとも思っていた。ぺし子は5分間の瞑想で元来の美しい心を取り戻した。


翌日、ぺし子は再び宝くじ売り場に向かった。清められた心と煮えたぎる執念深さ…じゃなくて情熱を抱えて、さっそうと自転車を漕いでいるうちに自分の勇敢な行動に興奮して(そしてペタルに踵をしこたまぶつけて)感極まり涙ぐみながら叫んだ。「お姉さん、いつもの!クイックピックで」


だけど、当たっていなかった。いったいどこに不具合があるのだろう? 昨日の5分の瞑想で身も精神も清め尽くし、これ以上はないだろう、というくらい念入りに「当たれ!」と願ったのに。「おい神様、どうなっていやがるんだ!」…とつぶやいたことは無かったことにして、清い気持ちでまたひとり反省会をした。


そしてまた翌週、ぺし子は宝くじ売り場に足を運んだ。その日は一粒万倍日だったので、宝くじ売り場はいつになくごった返していた。あぁ、愚かな民衆よ、一攫千金の夢に群がって儚い夢を見続けることはやめて、ぺし子さんだけに幸運を譲りなさい。…などとつぶやいている場合ではない。ぺし子は自分でも知らぬ間に、腹の中に底知れぬブラックホールを宿し、地獄の沼に何もかも引きずり込まんとする邪悪なパワーを漲らせていた。

周囲の人間を蹴散らしてでもぺし子はロト7に当選したかった。いや、しなければいけなかった。するべきだった。して当然だった。しないはずがなかった。

自分以外の人間が当選することは許されない。そうだとも、私以外のやつらは、末等の微々たる金額の前にひれ伏すがいい!ぺし子はいつになく(いつものように?)えげつない顔をして言った。「お姉さん、いつもの!」

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