第3話 だけどやっぱり気になるその能力

醤油せんべいの件はちょっと残念だったが、ぺし子はそんなことでへこたれるスーパー主婦ではなかった。ぺし子は自分が特別な存在だと思っている。根拠はない。それでもこの人口1万5千人の町で最初にUFOを見るのは自分だと思っているし、生涯、犬の糞を踏むことはないと確信しているし、自分の人生設計にはあらかじめ「宝くじ高額当選」が組み込まれているのだ。


だから、ぺし子は毎週欠かさず宝くじ(最近はロト7)を買い続けている。いつも買うのは一組だけ。宝くじに当たる確率は2分の1だとぺし子は考えている。当たるかはずれるか、どう考えたって確率50%だろ。エライ数学者とかが数式並べて何年も無駄にしている意味がわからない。40年ほど予定は遅れているようだが、ここ数日の出来事を思い出してみると、ふむふむ…やはり計画は水面下で着実に進んでいるようだと、ぺし子はほくそ笑んだ。


おととい、ケチで有名なお隣さんが珍しく「たくさん生り過ぎたから食べて」と柿をくれたし、2週間前から旦那は出張で、まだあと2週間帰って来ないし、「クイズ・アホちゃいまっか?」をテレビで見ていて、「手綱こんにゃく!」と力強く茶卓を叩いて正解を叫び、答えられなかった出場者を鼻で笑い飛ばした。


いいこと続きの、いや、いいことしか起こっていない最近の状況からして、もうひたすら輝ける未来に向けて突っ走るしかないのでは?…とぺし子は興奮した。

そして、やっぱり、まずは宝くじでしょ。ぺし子は行きつけの宝くじ売り場に行き、「お姉さん、いつもの!」と言いながらロト7をクイックピックで一組買った。この二百円が6億になる、え?今週はキャリーオーバーで10億? まぁそれでも許す、とわけの分かんないことを考えながらぺし子は家に戻った。


たぶん、醤油せんべいのときは、念じ方が足りなかったから30%増量お徳用大袋にならなかったんだ。今回はかなり力を入れて念じたから当たる確信がある。


かくして、当選発表の日、ぺし子の心は、すでに通称「億の間」と呼ばれている銀行の一室に飛んでいた。ハンコとマイナンバーカードと当選券持って・・・あぁ何着ていこうかしら?

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