第5話

 それは考えるまでもなかった。たとえ手当たり次第に鍵を試していったところで、簡単に気づいてしまうことだった。だが、ぼくにとってそれは一条の光となり得る名案であった。

 ぼくは、簡易地図を用意すると、地図とペン、そして合鍵を乗せて、自転車にまたがった。おおよその道順を決定すると、その順序に従って各マンションの入り口を訪ねて回ったのである。

 考えてみれば当然のことだった。仮に、差出人の家がマンションの一室だった場合、その鍵はもちろん、エントランスの扉を開けることが出来るはずである。逆にいえば、エントランスを開けられない鍵は、そのマンション全ての部屋に該当しない。つまり、建物の入り口で適合か否かを調べるだけで、その棟全ての家を調べることができるのだ。もちろん、玄関と各家の鍵がそれぞれ異なる仕様であるかもしれないが、置き手紙の文面からして、そんな卑怯なことはないだろうと思われる。エントランスであれば、別段、住人に見とがめられる危険性も低い。試してみる価値は十分あるはずだ。

 ぼくは何気ないふうを装い、学生が住んでいそうな建物の玄関の前に立っては、そっと鍵を差し込み、差し込めた物は痛まないようにそっと捻る作業を続けた。玄関に一括した鍵がないが、統一の建物に住宅が設えてある場合は、無人そうなお宅を一つ試させてもらった。その代わり、戸建ての建物は無視した。

 気の遠くなるような作業は、誰かに咎められるようなこともなく、ただ時間だけが過ぎていった。最初は威勢の良かったぼくだったが、次第に淡々と移動を続け、やがて日が沈み始めた頃には馬鹿馬鹿しいような気分になっていた。地図を見ればまだ市全体の一、二割程度。到底、見つかるはずもない。貴重な休日が沈みゆくことに虚しさがこみ上げた。暮れなずむ太陽に言い知れぬわびしさを感じ、日が暮れたら帰ろうと、ただそれだけを考えて、日が暮れることを待ちながら、体温と同化した鍵を挿していった。

 ところが、奇跡は唐突にして起こったのである。

 機械的に挿した鍵が、予想以上に滑らかだったのでぼくは大変驚いた。鍵を捻ると、小さく音を立てて、扉は呆気なく解錠されたのである。

「まさか……」

 呆気にとられたのは言うまでもない。

 驚きから覚めると、ぼくは慌てて屋内に立ち入った。

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