第4話
「鍵の拾い主?」
いかにも好青年といった例のお巡りさんは、快く答えてくれた。
「見た目は君より少し年下の女の人で、大学生だと言っていたよ。名前は聞いてないな。それほど会話をしたわけではないけれど、どっちらかといえば無口な感じの人だったよ。荷物を抱えて、急いでいた様子だったなあ」
「届け出てくれた時刻はいつ頃ですか」
「ええと、今朝十時頃だったかな」
ぼくが鍵探しに出たのが九時頃だ。
「拾った場所は?」
「鴨川と三条通の近く、自動販売機の近くだったそうだよ」
ぼくは礼を言って交番を後にした。考えなければならないことがあった。
拾い人はいつ鍵を拾ったのか。昨晩だろうか、それとも今朝か。昨晩だとすれば、差出人は少なくとも十時間以上、鍵を持っていたことになる。ぼくの家を見つけるのに数時間がかかったとして、残りの時間は何をしていたのだろう。……恐ろしいのであまり深追いしたくはない。
でも拾い主は自分と同じ大学生。それも悪意を持った人間ではなさそうだ。その情報だけでも充分収穫はあった。
ぼくは問題の自販機の前まで足を運び、昨夜の様相を頭に思い描いた。人通りの多い金曜日の夜。そこで誰かが鍵を拾った……。
真っ先に思い浮かぶのは、その人物がぼくを尾行した、という可能性だった。泥酔したぼくが鍵を落とした瞬間を目撃し、それを拾った後にぼくを尾行して家を突き止めた。それが最初から悪意を持っていた人間だとしたら、全く以て恐ろしい話だ。酩酊から覚めたとき、すでに部屋は空き巣に荒らされていた、ということだってあり得たのだ。ぼくは心底震え上がった。やはり警察を呼ぶべきだろうか、とちらりと考える。
尾行の線は捨てきれない。が、この方法は応用が利かない。こちらから探すに当たっては、そもそも尾行する相手がいないので諦めるしかない。
では他に方法はないだろうか、と頭を回転させたとき、ぼくははたと立ち止まったのだ。犯人は鍵の形に見覚えが合ったのではないか。例えば、ぼくと同じマンションに住んでいる、というのはどうだろう。
だが、この案はすぐに破棄される。犯人が残した合鍵は、ぼくのそれと似ても似つかない。同じ型でなければ、マンションの入り口の扉を開けることは叶わないのだ。あの合鍵こそが、同じマンションでないことを証明している。
では一体、どうすれば……。
ぼくは思案に暮れながら、自身のマンションの入り口へと舞い戻ってきた。考え事に気をとられていたぼくは、無意識のうちに玄関の鍵を開けようとした、その時だった。
ガキッという音がして、鍵穴がその手を拒んだのだ。ぼくは図らずも、赤の他人に渡された合鍵を差し込もうとしたのである。
つかの間、ぽかんと手元を見つめたぼくは、はっとしてにわかに興奮を覚えた。
これならいける、という確信が全身で脈打った。
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