「それからの僕ら・2」

「いらっしゃいませ。

 あら、かわいいお客さんですね。」


そうして出てきた女性に、

ユウリはこのお店がマイコさんの生家で

間違いがないかどうかたずねた。


すると、女性はにこりと笑う。


「…ええ、そうなんです。マイコは私の母でして。

 今は宇宙飛行士で海外にいるんですが。

 もしかして、母のファンの方ですか?」

 

そこで、ユウリがここにきた経緯を説明し、

女性はその話を聞くと喜んで僕らを

屋外にあるテラスへと案内してくれた。


「そうですか、宇宙飛行士になってからの

 母のファンはよくここに来てくれるんですけど、

 病院時代からの人は始めてでして…」


そう言って、女性は育ての親である

マイコさんの昔話をしてくれた。


生家の近くの裏山で流れ星を見に行った日、

偶然、出会った男性が大学の創設者であり、

彼女の家庭を見て後に養子に引き取ってくれたこと。


天文学を育ての親から学びつつ、

生みの親が重い病にかかったことをきっかけに医者を志し、

最先端医療を学ぶために海外の大学に留学したこと。


日本に戻り医者を務めながら、

将来のために宇宙で行える医療を目指そうと

宇宙飛行士を目指し試験に合格したこと。


そして、海外で宇宙飛行士をしながら、

宇宙で可能な医療活動を日々研究していること。


「母は偉大な人です。孤児であった私を育ててくれましたし、

 この土地は亡くなった彼女の両親のものなのですが、

 養子になった後も家に援助を続けて最後まで面倒を見ていたんです。」


その時、アイスティーの氷がカラリと落ち、

女性は店の後ろにある傾斜を指差した。


「この上、もともと神社があったんですが、

 隕石が落ちたその場所を母がお金を出して綺麗に整備して、

 今では結構有名なフォトスポットになっています。

 近くの大学の方もこの場所の石質を調べに時々土を採取しに来ますし…

 よかったら見に行ってくださいね。」


そう言って微笑む女性。


やっちんは大学の人間が土を採取しに来るという言葉に、

鉱物学者である自分の叔母さんのことを連想したのか、

びくりと体を震わせる。


…そういえばキヨミさんは、

国内で古生代の生物の化石を発掘したらしく、

今年で大学教授になったと聞いていた。


僕らが化石にいたずらをしてから随分経つが、

あれから大学はどうなっているんだろうか?


そんなことを考えていると、

店舗内から軽快な音楽が流れだし、

写真で見たもう一人の男性がドアから顔を出した。


「なあ、新作のゲームができたんだけどさ、

 ちょっと内容見てくれよ。」


それを見て、女性は「また?」と苦笑する。


「彼は今、ゲーム制作に夢中なの。

 喫茶店の仕事の傍らに時々作ってて、

 …よかったら見てく?」


やっちんはそれに食いつき、

僕らは店舗内へと戻ることにする。


みれば、店内に置かれていたテレビがついていて、

売れっ子のアーティストが最新アルバムを出した

というエンタメ情報が流れていた。


「お!こいつら地元がここなんだよ。

 中学の頃に結成したフォークデュオで、

 …今年で十五周年を迎えるんじゃなかったかな?」


そう言って、パソコンを持った男性は

テレビの向こうで爽やかに歌う

若い男性二人を懐かしそうに見つめる。


「中学時代に二人が即興で演奏するのを

 俺は見てたんだけどさ、やっぱ上手いよね。

 ヨシノスケとあいつだからこその、

 この音楽なんだろうな。」


その時、画面がプツリと消え、

女性が「ほら、子供達が待ってるわよ」と声をかけると、

男性はハッとしたように照れてみせる。

 

「おお、悪い悪い。

 じゃあ、これ見てくれないか?」


そうして、男性が見せてきたのは、

ドット絵のゲーム。


プレイヤーはキューブを持ち、

ステージに置かれた障害物をアタックしたり避けたりしながら、

その面のボスであるウサギやアヒルの着ぐるみにタッチし、

クリアするゲームだ。

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