エピローグ

「僕らの願い」

『おめでとうございます!スタンプラリー制覇です。

 お願いすることは決まりましたか?』


なめらかな女性の音声が、

僕らのスマートフォンから流れ出る。


…気がつけば、僕らは病室にいた。


目の前にはベッドに横たわる老婆。


投薬によって眠り続ける

駄菓子屋のおばあさんの姿がある。


僕らの姿は中学生のまま。

手には光るキューブとスマートフォン。


…これは、僕らが管理者と対決する

時間まで戻った状態なのだろうか?


未来の時間軸では管理者は死んだはずなのに、

願いを叶えるシステムは正常に働いている。


時間が巻き戻ったせいで、

管理者がまだ僕らを管理している状態か、

あるいは彼女の代わりにキューブの

知的生命体が話しているのか…。


すると、ユウリが恐るおそる

キューブにたずねる。


「ねえ、さっき管理人のおばあさんを

 私たちが倒しちゃったみたいなんだけど、

 それでも、お願い事をした後で、

 私たちがナンバーずになっちゃう可能性はあるの?

 …これって、お願いじゃなくて質問なんだけど。」


しばらくの沈黙。


『可能性として無いとは言い切れません。』


「やべえじゃん。」


…さすがやっちん。

僕らの気持ちを代弁してくれる。


『正確に言えば、あなたがたの願いの内容によっては、

 今後、ナンバーずになる可能性が高くなるということです。

 今現在、管理者は一時的にシステムに関与できていない状態です。

 理由につきましては当方ではお答えできかねるのですが…』


そこにユウリはため息をつく。


「まあ、あんなことになっちゃえばねえ。

 その分システム管理はキューブの方で

 してもらってると考えたほうがいいのかな?」


僕を見てユウリはそう問いかける。


…まあ、そうなのだろう。だからと言って、

願いを適当なものにするわけにはいかないが。


何しろ、一度叶えてしまった願いは

取り消されることはなく、

そのまま未来へと移行してしまう。


それに、現在の僕らは一時的に

管理者の目から逃れているようなもの。


願いの内容次第によっては、

将来的にキューブに見放され、

僕らもナンバーずになってしまう

可能性だって捨てきれない。


…そこで僕はこうたずねる。


「これも、質問なんだけどさ。

 お願い事をした時に人数は関係する?

 一個の願いで三人同時に移動とか。」


『それは、人名や人数をあらかじめ

 指定していただければ可能です。』


その様子を見て、ユウリがボソッと言う。


「…なんか、質問って便利な言葉ね、

 いくらでも情報を引き出せるし。

 それとも管理人側に融通が利かなかったとか?」


…まあ、それはあるかもしれない。


だが、それ以上に、

ナンバーずとなってしまった

子供たちは知らなかったのだろう。


自分たちの願いがどんな代償を引き起こすか。

どんな結果になってしまうのか。


…いや、そもそも、

こんなシステム自体、馬鹿げているのだ。


幸福になりたいから願いをするのに、

その結果、不幸になるなんて間違っている。


そこでやっちんが「で、俺たちどーすっぺ?」と聞き、

僕は二人を呼んで、思いついた作戦を話すことにした。


「…うん、それでいいんじゃないかしら?」


「俺も、でも順番に気をつけなきゃな。」


僕が話を終えると、

二人はその作戦にあっさり快諾してくれた。


あまりにあっけなく、あっさりと同意されたので、

僕は二人に「本当に大丈夫?」と念を押す。


すると、ユウリはくすりと笑う。


「…大丈夫、理屈にもあっていると思うし、

 それなら丸く収まるわよ。」


やっちんも僕の肩をたたく。


「自信を持てよ。俺はお前の言ったことで

 今まで失敗したことなんてないと思ってる。

 俺たち親友なんだ、もしダメでも後悔しないぜ。」


その言葉に勇気づけられ、

僕は二人の目を見てうなずいた。


「よし、三人で未来を変えよう。」


それに二人は返事をし、

しばらくしてから病室に光が満ちていった…

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