「振り出しへ戻る」

上下もわからないような真っ暗な空間。


しかし、そこに僕ら三人だけが

いることだけはわかる。


未来の僕らが失敗したという世界。


キューブのかけらによって繁栄し、

見放され、あの巨大なひだの生物によって

世界の記録を吸い取られてしまった

あの時代の人々はどうなってしまったのか。


…いや、わかっている。

あの場で生き残った人間は誰もいないはずだ。


そして、薄れゆく記憶は、

僕らがあの未来から離れていくことに他ならず…


『反省したぁ?したよねえ?

 してなかったら困るなあ?』


気がつけば、僕の目の前に少女がいた。


…いや、それは少女ではない。

それは、子供の姿をした人形。


百貨店などでよく見るような、

緋色の着物すがたの市松人形が、

こちらを見上げて立っている。


『茶壺をかき回すような悪い子は、お痛をしなきゃダメ。

 お痛をしてもわからない子はコマになってもらうの。

 悪い部分を振り出しにしてコマになってもらうの。

 …この意味わかる?わかる?』


…わからない。

わかりたくもない。


僕は吐き気のするような気分におちいりながら、

ゆっくりとこちらへとやってくる人形から目を離せない。


ユウリも、やっちんの姿も見えず、

両手に持っていたキューブもスマホも反応しない。


ヒタヒタと表情を変えず、

こちらに近づいてくる人形。


そう、彼女こそ、

僕らを一日のうちに二回も

ラリーに参加させた張本人。


彼女は管理人。


このスタンプラリーを管理する、

たった一人の人間であり…


『この人形さんの中身が誰なのか。

 それがわかったら、また遊んであげる。

 みーんな、みんな、一回休み。

 後悔してから遊びましょう。』


そう言って背中から出してきたのは、

一匹のギザギザの歯ぐるまにも似た

歯を持つネコのぬいぐるみであり…


ブチュッ


そのネコがこちらを向いた瞬間、

僕は巨大な二つの歯車の中へと、

巻き込まれてしまった。



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