「キューブの恩恵」

三年後の未来ここはキューブから出るかけらを使い、

人間の脳の認識部分を拡張させ発展した世界だった。


建築物はおろか、パソコンや、化粧品や、

サプリメントや薬にもキューブのかけらは使われ、

この世界はキューブの恩恵によって栄えていた。


人の認識能力を拡張することから、

企業はこぞって量産したかけらを手に入れたがるようになり、

自身の体に使ってより効率的なビジネスモデルを考え出したり、

よりクリエイティブな建築物や自動化の進んだ機械を生産したりした。


そして、生産性が向上するとともに、

街を中心にビルや商業施設が立ち並ぶようになり、

三年前に比べると街に暮らす人々の生活水準は、

はるかに向上していた。


誰もがその世界を当たり前のように受け入れていた、

老若男女問わず…そう、ここにきた僕らでさえも…。


…そう、僕はおかしいと思っていた。


なぜ、僕らがラリーのたびに、

行ったこともない商業施設や建物の

中の把握ができたのか。


そして、当たり前のように、

その場所を走り回ることができたのか。


…それは、空気中に混じっていた

キューブのかけらによるもの。


かけらを吸い込んだために拡張された認識能力のおかげで、

僕らは、ここがどこで、どこに行けば何ができるかが、

誰に教えられずともわかっていたのだ。


そして、その大元となったキューブ。


そのキューブである知的生命体が、

今まさに、この世界を見捨てることが、

かけらを伝った僕らにはわかっていた。


「キューブはここから去っていく時に、

 惑星に生き残った全生物の記録を吸い取っていく。

 …その反動に耐え切れた生き物は今までいない。

 彼らの母体を見るまでに全員死んでしまうんだ。」


僕は、未来の僕の声を聞きながらも、

自分の体が透けていくことに

気づいていながらも上を見上げる。


星の散りばめられた空。

星雲の見える夜空。


だが、その中心部に、

星のかけらを吸い込んでいくがいた。


星雲よりもはるかに大きな何かが、

いくつもヒダになった膜のような

両手を広げてこちらに向かってくる。


聞こえてくるのは叫び声。

かけらを通して聞こえる生きた人たちの叫び声。


を見て、パニックになり、

あるいは泣き、狂気に笑い転げる者さえいる。


そして、空を覆い尽くしたに、

地上から飛び立つ三つのキューブの影を見たとき、

スマートフォンを持った未来の僕はこう言った。


「これが、僕らが願い間違えた結果、

 人類の最後の瞬間、そして僕たちは…」


だが、それ以上の言葉を聞くことができなかった。


なぜならその瞬間、辺りが真っ暗になり、

僕らは何もない空間に取り残されたのだから…

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