「スタンプラリーの意義」

「待って、じゃあ何? 

 スタンプラリーにはなんの意味があったのよ。」


ユウリはパソコンに向かって必死に聞く。


「私たちがスタンプラリーをする意味は何?

 あなたたちが大人と協力して世界に発展をもたらしたいなら、

 勝手にそうすればいいじゃない。子供は関係ないじゃない。」


そこで、僕は気づく。


「なんで、私たちはスタンパーにならなければいけなかったの。

 なんで、願いを叶えた代償でナンバーずになってしまうの。」


強く拳を握ったユウリ。

その両目からはハラハラと涙が散っている。


「結局、未来は発展なんかしていないじゃない。

 キューブのせいで、たくさんの人が死んで、

 子供が化物になってしまう世界じゃない。」


そうか、ユウリは彼女の友人であるミカが、

願いを叶えた代償でナンバーずになって、

それを僕らが倒してしまったことを、

ユウリは今も悔やんでいるのだ。


僕は目の前のパソコンが、

なぜナンバーずのことを話さないのか、

研究室の頃から気になっていた。


…確かに、ここまでの会話でキューブの中の知的生命体は

一度としてスタンプラリーに触れることさえしなかった。


知的生命体はこのことについて、

言いたいことをごまかしている…いや?


そこに、知的生命体はこう続ける。


『スタンプラリーと私たちのプロジェクトは別の物でした。

 当初、最終的な目標は文明の発展とこの惑星の住人の幸福を

 向上させるという点では同一だったのですが…』


そこで、僕は思い出す。


確か、知的生命体は、

『環境が整った』としか言わなかった。


ここに来るまでにキューブは、

初期設定の際にスタンプラリーの案内はすれど、

意志を持ち、話しかけてくる様子はなかった。


逆に、はっきりと意志を持って話しかけてきたのは、

ヨシノスケさんがユウリのキューブの端末をコピーし、

起動した後のこと。


それが、何を意味するかといえば…


『ナンバーず・スタンプラリー、それがなぜ行われるのか。

 あなたはそれを知りたいのですね?』


「そうよ、それ以外に何があるというのよ。」


涙をぬぐいながら、

ユウリはそう言い返す。


すると、知的生命体は

少し間を置いてからこう答えた。


『ナンバーず・スタンプラリー、

 それは私たちがこの惑星に初めて来た時に提案された、

 子供の願いを叶えるためのプロジェクトです。

 それは過去から未来の技術へとつながり、

 今の形へと至りました。』


その瞬間、僕も、ユウリも、

話に飽きてマンガを読もうとしていたやっちんでさえも、

一斉にパソコンの中の知的生命体へと目を向けた。


『そして、その運営は、今も一人の人間の

 意思の力によって行われているのです。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る