「再び話し出したパソコン」

「キヨミさん、本当は自分が一番研究したいと

 思っていたんだろうけど、私たち今後のことを考えて、

 パソコンを渡してくれたのね。」


そう言うと、ユウリは机の上にあるおせんべいをつまむ。


…大学から戻った後、

僕らはやっちんの部屋で勉強会と称して集まり、

ヨシノスケさんのパソコンを開くことにした。


時刻は午後三時。


午前中にナンバーずを一体スタンプしているので、

今日、これ以上ラリーに呼ばれることはないはずだ。


「コピーデータの入ったパソコンか。

 でもこれ、キヨミさんが返事をしてから閉じてたけど、

 ウンともスンとも言わなかったらマジどうする?

 梱包して大学にでも送り返す?」


やっちんは電源を入れて立ち上がる

パソコンのスクリーンを見つめながら、

そんな疑問を口にする。


「そしたら、その時よ。」


ユウリはパソコンの画面をパチパチと打つも、

立ち上がったスクリーンはそのまま、

キューブの画像もなく音声も流れてこない。


「うーん、やっぱりあの質問が、

 最初で最後だったのかしら?」


そして首をかしげるユウリに対し、

僕は少し思うところがあり、

自分のスマートフォンについていた端末を取ると、

それを目の前のパソコンに差してみる、すると…


『なるほど、気づかれましたね。

 そうです。これはキューブの端末を差してこそ、

 作動するようにプログラミングされていました。』


…そう、思った通り。


目の前のスクリーンが、

以前にも見たキューブの画面へと変化し、

聞き覚えのある女性の声がパソコンから流れてくる。


それは端末を差し込むまで

スリープ状態にでもあったのか、

何事もなかったかのように会話を再開した。


『次回作動させるときには、

 あらかじめキューブと端末をご用意ください。

 将来的に企業に持ち込まれるとしても、

 同様のことを考慮に入れるようにお願い致します。』


僕の思考を読んだかのような、

知的生命体の言葉。


しかし、その言葉にユウリが反論する。


「何よ、結局人の役に立つとか言っておきながら、

 スタンプラリーする私たちには一言もアドバイスせずに

 大人にちやほやされたいようにおべっかを使うのね。

 そんなの信用されるわけないし悪い大人しか寄ってこないじゃない。」


憤慨しながらもユウリは言葉を続ける。


「それに、キューブのデータが必要だというのなら、

 今、スタンプラリーをしている子供たちはどうするのよ。

 企業の数だってあるだろうし、子供から取り上げて、

 キューブだけ大量生産するつもりなの?」


『いえ、それは不可能です。』


ユウリの嫌味を含んだ言葉に、

キューブはにべもなく答える。


『もともと、この惑星に来たキューブは三つだけでした。

 構造上、欠けても自己再生する能力はありますが、

 同様の物体を作り出すことは今の人類にとって不可能な話でした。』


「だったら…」


『しかし、三年後の未来。

 一つの企業だけがそのノウハウを独占しようとし、

 事業拡大のために我々の制止を振り切り、

 必要なものが欠けた状態でキューブの大量生産に

 踏み出そうと地下施設で日夜実験が行われたのです。』


「…え、」


『その結果、大量の犠牲者を生み出す事故が起きました。

 キューブは精製されず、エネルギーを持った細かな粒子が外部に漏れ出し、

 我々は最終的に、この惑星を去らざるを得ない事態となりました。

 それは我々も本意ではありませんでした…』


その言葉に、僕らは黙り込む。

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