「断りと選択」

「…いや、それはないねえ。」


知的生命体の呼びかけに、

キヨミさんは即座に断りを入れる。


『そうですか。』


すると、パソコンはおろか、

すべてのスマートフォンやキューブは光を失い、

次に点いた時には普段使う画面へと変化していた。


「え?」


今までパソコンを見つめていたヨシノスケさんは、

呆然とした顔でキヨミさんを見上げる。


「…先生、なぜですか。なぜ断ったんですか?

 どうして彼らの申し出を断る必要があったんですか?」


今しがた起こったことが信じられないのか、

ヨシノスケさんはふらふらと立ち上がり、

キヨミさんに詰め寄った。


「これは鉱物の形さえ取っていますが、確かに知的生命体ですよ?

 形状を変化させ、ネットワークを介して短時間のうちに学習し、

 協力的で、我々の知的文明を発展させることを目的としている。

 …これほど社会に貢献してくれる相手に何の不満があるんですか?」


その声は怒気を含んでおり、

今にもキヨミさんにつかみかかりそうにも見えた。


ちなみに、こんな時にもやっちんは

「おー、ちゃんとゲームも復活してる。」

と早速ソファでスマホゲームをやり始めている。


しかし、キヨミさんは冷静だった。


「…ヨシノスケ。あんたは今、盲目の状態だ。

 さっき知的生命体とやらが話していることに、

 何の疑問も持たなかったのかい?」


キヨミさんはそういうと、

部屋の奥に行き、備え付けのポットから

二人分のインスタントコーヒーを注ぐ。


「あの知的生命体は、確かにすごいよ。

 鉱物の姿でありながらも確かな知性を持っている。

 パソコンや周辺機器を媒介にして会話をする能力も得ている。

 これを学会に発表したらノーベル賞ものさ…だけどね、」


そう言って、ヨシノスケさんにコーヒーの片方を渡す。


「私たちは、まだその生命体と数分しか会話をしていない。

 相手が何者かも詳しく知らず、出された情報のみを鵜呑みにし、

 社会に出すのは危険な行為じゃないかい?」


「なー、俺の分は?」そう問うやっちんを無視し、

キヨミさんは更に言葉を続ける。


「ヨシノスケ、あんたは学生時代はマトモだったじゃないか。

 時間をかけて対象を調べようと努力するあんたの姿は、

 どこにいっちまったんだい?」


キヨミさんの無言の圧力で

ユウリと一緒に三人分のココアを作りつつ、

僕は、この師弟の状況を見守る。


…そして、しばらくの沈黙。


やがて、ヨシノスケさんの方が折れたのか、

「…ちょっと、頭を冷やしてきます」と言って、

パソコンとコーヒーを持ったまま部屋を後にした。


キヨミさんは少しふてくされた感じで

コーヒーを飲みながらソファに座り、

やっちんは相変わらずゲームで遊んでいる。


そして、僕とユウリはお互いに顔を見合わせた後、

ヨシノスケさんを追って部屋を出ることにした…

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