「キューブと隕石の関係」

「これ、隕石なんですか?」


ファミレスの机の上に並べられた、

三つのキューブと二つのビニール袋に入れられた破片。


それぞれ同じような光を反射し、

ぱっと見区別はできないように思えた。


それを見てのユウリの質問に、

ヨシノスケさんは嬉しそうにうなずく。


「ええ、祖父が山で採取したものなんです。

 流れ星騒動って理科の先生から聞いたことはありませんか?」


その言葉に僕らは首をかしげ、

ヨシノスケさんは少し残念そうに微笑んで見せた。


「そうですか、何ぶん古い話ですしね。

 昔、この土地に隕石が落ちたことがあって、

 どれも小石程度の小さなものばかりでしたが、

 落ちた先の神社や木々にいくつか被害があったため、

 地元の人が現場を見に行ったんです。」


そこに、キヨミさんが口を挟む。


「ヨシノスケのおじいさんは地元の駐在さんでね、

 隕石の現場を見に行くように駆り出されたんだ。

 このあたりは土地開発が行われる前は山だったんだよ。」


「そうなんです。」と言って、

ヨシノスケさんは小さな標本を手に取る。


「そうして、見つかったのがこのかけらです。

 周囲にもいくつか見つかっていたそうですが、

 僕が調査した段階では現存するのはこれのみでした。」


そうして、ヨシノスケさんは、

恥ずかしそうに頬をかく。


「まあ、僕の場合。修士論文をどうしようか考えていた時期に、

 たまたま祖父の押入れの中からこれを見つけただけなんですけどね。

 日記とか紐解いて、ここにあった流れ星騒動のことを知って、

 地元でもあんまり焦点が当たっていなかったから研究しただけで。」


そんなヨシノスケさんにキヨミさんは首を振る。


「でも、誰かが見つけなければ価値は生まれないよ。

 その時の実地調査を含めた資料のおかげで、

 こうして調査を再度行うことになったのだからね。

 ヨシノスケはおじいさんによく感謝しておきな。」


「ええ」と答えるヨシノスケに、

再びユウリがたずねる。


「じゃあ、これは未知の物質ってわけじゃあないんですよね?

 ヨシノスケさんが論文に書いたのなら他の人も知っているはずで…」


その質問に対し、ヨシノスケさんは困ったようにため息をつく。


「まあ、そうですよね。普通ならそうなるんですけれど。

 結果的にこの隕石の研究は講評はされましたが、

 あまり、周知はされなかったんです。」


「へ?」


そうたずねるユウリに対し、

やっちんは「なー、まだ続くの?この話ぃ」と

早くも飽きてきてキヨミさんに小突かれている。


「こら、ちゃんと話を聞きな…えーっと、そうなんだよ。

 一応学会にも発表したんだが、どうにも周りの反応が鈍くてね。

 同じ時期に珍しい古生物の化石が出たから、

 そちらの方に人気が集中してしまったんだよ。」


「私も同行したから、よーく知ってるよ」と

キヨミさんは当時を思い出したのかうなり声をあげた。


「まあ、隕石にもケイ酸塩が出るものはあるが、

 ここまで結晶化したものは、まず見つからないからね。

 本来だったらもっと騒がれてもおかしくないはずだったんだ。」


そこにユウリが質問を挟む。


「あのー、昨日から気になっていたんですけど、

 ケイ酸塩ってなんなんですか、他の隕石とは違うんですか?」


すると「いい質問だ」とキヨミさんはニヤリと笑う。


「隕石は一般的に鉄を含んでいるものが多いんだが、

 他にも透明度の高い小さなかんらん石や輝石を含む

 ケイ酸塩鉱物を含む隕石を石質隕石と呼んでいるんだ。」


「ほへ?」…やっちん、説明についていけず、

半ばギブアップ気味で天をあおぐ。


「この石質隕石の中には化合物や有機物の形で炭素原子を含む、

 炭素質コンドライトというものがあるんだが、

 中にアミノ酸や脂肪酸などの有機物を含む場合もあってね、

 太陽系創生当時の元素組成の情報を含んでいる可能性があるのさ。」


「えっと、えっと…」


聞きなれない単語にオタオタするユウリに、

キヨミさんは「ちょっと難しかったか」と舌を出す。


「まあ、隕石の中には生物の元となる物質が含まれる

 星の化石のような石もあるって考えるんだね。

 そして、その石を発表したのがヨシノスケなのさ。」


「…まあ、認知度は低かったですけどね。」と、

残念そうに首をふるヨシノスケさん。


「雑誌に載せても誰も関心を寄せてくれませんでしたし、

 就職した研究所でも話題に上がるのは、

 前に留学していた大学の共同研究の内容ばかりでしたし…」


そこで、キヨミさんは立ち上がる。


「ま、その話はやめにしよう。

 大切なのはこの物質がどこから来たかを知ることさ。」


それに合わせるかのように、

隣で船を漕いでいたやっちんがビクンと起きる。


「まったくこの甥っ子は…ほら、顔洗って支度しな。

 テーブルの角をほっぺたにつけたまま外を出歩くんじゃないよ。」


そうしてあきれ返るキヨミさんに連れられる形で、

僕らは次の目的地、キューブが流通していた

駄菓子屋へと向かうこととなった。

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